二
エリオを残し屋上を出て階段を下りていく時に脳裏に蘇ってくる光景……中学二年の時に友人がいじめられてる時に何もできなかった自分、テツは怖かった、もし助けたら自分がいじめの対象となると思うと足が震え一歩が踏み出せない。
今思い返せば何て事のない理由だが当時のテツにとっては恐怖だった――結局はいじめが悪化し友人は転校と思いだすたびに拳を握ってしまう、そんな情けないテツを友人は笑顔で手を振り「気にするな、また遊ぼうな」と去って行く姿を肩を震わせ見送り、その夜は声を殺し歯を噛み締め涙に溺れてしまった。
「何を今更」
罪滅ぼしの気分を抱いてる自分に腹を立てて教室の扉を開けるとフェルにぶつかる紙が増えている、何の迷いもなく投げてる女子に近づき話を切り出す。
テツだって女性相手だから穏便に済ませたいと思いやめてくれと頼むと。
「おっさんには関係ないでしょ、あの子が文句言わなきゃいいじゃん」
折角整った顔してる女子が歪んだ笑顔になる、回りの女子も拍車がかかったように笑いテツは一瞬だけ鬼の形相になるが……頭を下げて頼んだ、三十三歳の男が二十歳も越えてない女に頭を下げて頼む「フェルはほっといてやってくれ」と。
「おっさん調子乗ってるでしょ、いっとくけどフェルだって人形見たいでそんな強くも――ッ」
テツも意識してなかっただろう、無意識に目の前の女子を殴っていた、それも加減なしの全力で腕を振り抜き体ごと飛ばし形の変わった鼻に驚いてる女子の頭を掴む、出来るだけ顔を近付けて今度こそ鬼の形相で睨む。
「おい餓鬼もう一度言ってみろ、フェルが弱いだぁ? てめぇあいつが戦ってる所見た事あんのかよ」
「ああぁ鼻が……私の……」
自分の事はいい、三十三歳でここまで落ちぶれたんだ馬鹿にされようと慣れている、しかしフェルは強いのにクラスのいじめを器が小さいと言い我慢しているんだ、年頃の女の子が気にしないわけがない……テツは感情移入を人より何倍もしてしまいフェルを馬鹿にされた事だけは許せない。
後ろから金属音が聞こえ振り向くと女子たちが自分の得物を構えている、それも訓練用のではなく真剣だ、前々からテツの存在が気にくわない連中がいたんだろう、皆殺気だってるがテツは笑ってしまう。
「お嬢さん方そいつで俺を殺すかい?」
「鼻がぁ……グゥウウ!! おっさん殺すぞ!!」
鼻を抑えながら立ち上がる女子の顔面に蹴りを入れたのが合図となり一斉に剣を持った女子が二人襲いかかってくるが間合いを殺しボディに一発づつ入れて悶絶させる、ボクサーのパンチを体を少し鍛えた女子が耐えられるわけがない。
一瞬で二人沈めたテツを前にし圧倒的に数で有利な女子たちが臆する、教室の空気は張り詰めて男子達は何事かと思い見るが床にうずくまる女子を見て固まり、戦いに参加してない女子たちは震え中には涙を浮かべてる者もいた。
最初に鼻を潰され顔まで蹴られた女子が立ち上がり椅子を片手にテツの頭を殴る事に成功する、背後からの奇襲もあり見事に直撃でテツは頭から血を流す。
「何してんのよ!! こんな落ちぶれ一人に!! 私達は騎士になるのよ」
多勢の前で膝をついてしまうテツを見下し女子達が笑って武器を出してくる、まずは肩を槍で刺され苦痛の声が出てくると女子達の笑い声でテツは包まれていく。
次第に視界が暗くなり血が足りないのか意識が遠のいていくと。
「考えてみれば俺もクラスで変人扱いで落ちぶれ組だもんなぁ~テツ加勢にきたぜ!!」
エリオが木刀を持ち一人の女子をブン殴っていた、飛びかけていた意識に気合いを入れられるようにテツは起き上がり笑う、薄い赤毛で眼鏡の少年が好きな女のためになりふり構わず戦ってる姿は美しいとさえ見えてしまう。
しかし狭い教室で多勢に無勢は不利で二人は囲まれ切っ先の先に立たされてしまう、もはや教室の喧嘩なんてレベルではなく命のやりとりになっていく。
「おっさんと落ちぶれエリオがぁ!!」
鼻の形も変わり醜い顔となった女子が剣を振り被るが武器に囲まれた二人に逃げ場はなく、回りで見ていた誰もが目を背けてしまったその時に――…蛇は走った。
振り被った剣だけではなく囲んでいた全ての武器を絡めとり地面に叩きつける蛇、正確にはワイヤーつきの剣だが女子達には本物の大蛇に見えただろう。
「やめてください」
座ったままテツ達に背中を向けフェルは口を開く。