四
テツも男だ、下心ないなんて言えば嘘になる、車の中でニノの寝顔に胸を膨らませよからぬ考えとひたすら戦っていると自宅のボロアパートにつき素早く自分の部屋に運びとりあえず布団をしきニノを寝かせて……寝かせてしまった。
「何やってんだぁああ俺はぁあああ!!」
ニノの隣に体育座りそっと寝顔を覗く、可愛い――長い眉毛に少し目を隠す前髪に一定のリズムを刻む寝息がどことなく色気を感じさせテツの欲望が加速していく。
思えばこの先自分に恋人なんて出来るだろうか? 出会いがあったとしても仕事を聞かれ稼ぎを聞かれ胸を張って答えられるだろうか? 怖い……この先ずっと恋人もできず一人の人生がテツは怖かった、責任は全て自分なのもわかるが頭ではない心が恐怖で震えるんだ。
もしかしたらこれが最後のチャンスかも知れない、これを逃したら一生女を知らないまま生きていかなければ……
「――…っ」
一度振り上げた拳を畳に叩きつけてテツは肩を震わす、もしここで間違えをおかせば自分はいいがニノはどうなる? こんなおっさんに……度胸がないと笑われるかもしれない、でもテツには目の前の可憐なニノには触れる事が出来なかった、もしも間違えをおかせば本当の意味でクズ人間になると思ったからだ。
高ぶる心臓を冷ますために洗面所にいき顔を洗う、鏡に映るのは二重だが妙に鋭い瞳に髭を剃って3日目になり少し生えかけている顔、髪型など黒髪を無造作に伸ばしボサボサだ、テツは我ながら思ってしまう酷い顔だと。
ニノに布団をかけてテツは畳に雑魚寝、さすがに今日ばかりは日課のPCやゲームをやる気になれない、まだ心のどこかでニノを襲ってしまいそうな自分をが怖く目蓋を閉じて暗闇の身を任せる。
「ちくしょう」
何度目だろうか、この言葉を悔しさで無意識に口に出してしまうのは……テツは握り締めた拳から血を滲ませながら意識を眠りの中に手放した。
「おいテツおきろ、おいおぉ~い」
テツが眠りにつき数時間後に体は揺れる、上下にユサユサとやがて揺れは激しくなり薄れていた意識がハッキリと蘇ってきたテツが目を擦りながら状態を起き上がろうとすると出来ない、まるで重力の鎖に繋がれたが如く一定以上には上にいけない。
暗闇に目が慣れてくるとニノがテツの上で揺れているのが見えた、馬に乗るが如く激しく上下に揺れている、そりゃもうどこぞの洋モノビデオばりに揺れまくっていた。
「ダッシヤァアアアアアアッァア!!」
「うわぁ!!」
ニノを横殴りに投げ飛ばしテツは勢いよく立つ、一瞬で全身から脂汗が噴き出して毛穴が全開に開いてしまう、寝起きの男は危険であり理性が吹き飛ぶ事もある……テツはその最後の理性を守るべくニノを全力で投げ飛ばしたのである。
「なにをするテツ!! まぁいい話を聞け」
「よくねぇよ!! 話す前になんで俺の上でギシギシやってんだよ!!」
「頼む聞いてくれテツ」
無表情だがどこか悲しげな瞳に吸い込まれそうになりテツは頭をガリガリかきながら押し黙る、丁度窓から満月の光が入ってきてニノを照らすとテツは素直に思う、綺麗だと。
起きた時に着替えたのか白のワンピース姿になりニノの美貌を際立たせる、月光を横顔に受けながらニノは口に出す、その言葉がテツの運命を大きく左右すると知りながら告げる。
「こことは違う世界で世界は滅びかけてる、魔王が世界を殺し戦いの日々が常に続いているんだ、私はその世界を救う相棒を探しにここまできて……そしてテツお前に出会った」
テツは再び横になり眠りの世界に旅立つ――のをニノが許さなかった、寝転がる背中を蹴り飛ばし壁に激突させるとテツが欠伸しながら立ちあがる。
「あのなぁニノそーゆ話は仕事中に聞いてやるから今日は寝ようぜ、あ明日休みか」
「テツ真面目に聞け!! これは真実なんだ」
「あのなぁ~どこの世界にそんな妄想厨二話信じる馬鹿がいるんだぁ~」
ニノの頬を膨らませ怒る姿を初めて見たテツは悪戯心を刺激されついつい口走ってしまう、運命の言葉を――
「ハハッわかったわかった、そこまで言うなら証明してみなよ、お前が言う魔王とか滅びかけてる世界をよ」
それを聞いたニノは笑う、後から思えばこれが契約じみた言葉だったのであろう――
「それ見ろ何も言えないじゃねぇかぁ、まぁ俺は寝るぞ、今日はお前のおかげで疲れたからなぁ」
嫌味を言いテツは眠る、ニノは満月に向かい顔を上げて拳を突き出す……意味はないのであろうがニノなりのガッツポーズであろう――
そして……おっさんは異世界のファンタジー溢れる世界に旅立った。