四
ヘクターの行動を見てイリアは即座に構えを変え下からの斬り上げを選択し地面を削る、地面の破片がヘクターの顔に飛んでいくが気にしてる暇などない、目の前に鉄の塊が迫りくる中腰を落とし地面に鼻がつくように張って間合いを詰めていく。
1秒にも満たない時間の中でほんの少しだけ体を左右に振りヘクターはイリアの死の一振りを避ける事に成功した、頬を切られ血潮が吹き出すが安い代償と勝利の笑みを浮かべて懐に手に持つ剣を叩き込む。
「ぬ、やるではないか!!」
両手を上げて空振り状態のイリアに一撃入れる事など容易で地面に落としていた顔を上げると視界が急に暗くなる、何が起こったか理解したのは地面に転がり痛みで叫びそうになった時である。
先程まで目の前にいたイリアは片足を上げて驚きの表情で自分の膝を見ている、自分の鼻が曲がっている事に気づきヘクターは立ち上がろうとすると景色が歪む。
「おぉ……ハハッ凄いな、ユウヤに教わった技はどれも驚きだな」
長年戦ってきたが膝を顔面に叩きこまれた事自体が初めてなヘクターは足元を震わせながら立ち上がるが倒れてしまう、脚で戦うなど発想すらしなかったが実際やられるとこうも厄介な物だと感心し鼻から血まみれの液を勢いよく出す。
「脳震盪という状態らしいぞヘクター、私も初めて食らった時には驚いた」
景色がグニャグニャと曲がり吐き気が込み上げてきて最悪の気分になる、歪んだ景色の中で銀色が近づいてくると死の羽音のように巨大な剣が地面を削る音が耳に響き心底脅えてしまう、立つ事すら出来ない。
「ぬ、ヘクター意外に容易周到だな」
地平線の向こうから煙を上げて騎馬隊が突撃してきている、長い槍を構えイリアは数を数える前に部下達に撤退命令を出すとヘクターに背中を向けて勝ち誇った台詞だけ吐き捨てる。
「中々に面白かったぞベルカの騎士よ、次はそのような醜態を晒さないように修行でもしてろよハハッ」
馬に乗るとイリアは風のように駆けていく、部下達も勝利の余韻に浸り歓声を上げてイリアの背中に引っ張られるように走る、王国ベルカの騎士団を蹴散らした事実は野党……傭兵集団アベンジの士気を上げイリアの実現不可能と思われた幻想が現実を帯びてくる。
ベルカを潰す、王国が出来て以来何千と反乱を起こした人々はいたが全てが壊滅させられた、しかし反乱分子に欠けていたパーツがイリアという指導者を得て今再び反旗を翻そうとしていく。
「ぬははは!! 痛快じゃないか、吐き溜めのような我らが王国を破り天下をこの手にするなんて」
イリアは20も歳も迎えておらず策士としての才もないがカリスマがある、人を集める魅力を持ち指導者として最も必要な部分に秀でている、統率の欠片もなかった傭兵集団を力でねじ伏せるという方法は強さを求める傭兵達もその力に魅了され次第にアベンジの数は増えていく。
「おぉおおおい!! イリアァアアアア!!」
本来ならここにいるはずがないハンクが手を振りながら走ってくるとイリアは馬を下りて首を傾ける、ユウヤと鍛冶屋に行ったはずのハンクがなぜここにと。
「イリア食事に行かないか二人で」
「ぬ、ハンク気でも触れたか」




