三
最初の一撃でわかってしまう……剣で受けしっかりと防御したはずなのに体は地面を離れ重力に引っ張られるように加速し飛んでいく、装着している鎧の重量と自分の体重を合わせれば100キロはあるはず。
それを片手で振り抜いた剣で軽々飛ばすほどの怪力、人間の域を出ている、つまりは――
「契約者か」
砂まみれになった鎧を持ち上げヘクターは膝を立てる、膝しか立たなく体が休息を求めているが剣を地面に刺して無理にでも立ち上がり構えるとイリアは笑う。
「ぬ、気づくの早いな」
「そりゃ馬鹿げた怪力見せつけられれば嫌でも気づくわ」
長年の経験ですぐに気付き相手の魔法を見抜く能力にヘクターは長けていた、炎や水とある程度の魔法に対処する訓練も詰み魔法無しでありながら今まで生き抜いてきた自信もあるが……今回ばかりはと焦りが顔に出た。
今まで使ってこられた魔法よりもイリアは遙かに達が悪い、炎風水とその手の魔法なら弱点などいくらでもあるがイリアは違う。
純粋に力、つまりは腕力――魔法で肉体を強化し剣術で挑んでくる、これには弱点など無く真正面から打ち負かすしかない。
「ベルカにも骨のある奴がいるのだな」
小手先の魔法ではなく肉体強化をしてきた相手は何人か相手にした経験があるがイリアは桁違い……契約者なのだ、人間が作り出した魔法ではなく本物の魔法、そんな化け物が力を手に入れてヘクターの前に立つ。
「どうしたヘクター威勢が消え焦りで汗が増えてきてるぞ」
喉が渇き体温が上昇していくのがわかる、イリアの剣術の腕はわからないがリーチの差が圧倒的にあり懐に入れる気がしない、一回の攻撃を空振りさせれば勝機が出るがその一回で自分の命を天秤に賭けなければいけない。
「……まいったね」
本来この手の相手には絶対に一人では挑まず数で囲むのだが回りの騎士は勢いに乗った野党に次々に殺され断末魔がヘクターの背中を押すようだった、時間もかけていられず勝機も見込みなくと絶望的状況で一歩を踏み出す。
行くしかない……死の一振りを避けてイリアを倒さねば騎士団は全滅を免れない、目の前の悪魔じみたイリアに対しヘクターは走り出し構えは無し。
地面に剣をつけ砂ほこりを立てながら一気に間合いに入っていく、何も考えず回避を数十年共に戦ってきた己の体に授けてみる事にした。
「――ッ」
「……ッ」
二人の影は重なる。