一
魔法破壊
城の城壁に使われる技術、炎だろうが風だろうが氷だろうが魔法である以上絶対的に相殺してしまうという技術は開発されたばかりで一部の国にしか使われていない。
魔法を破壊という能力ゆえに魔法は使えないが防御にこれほど向いた技術はなく、情報を聞いた各国は我先にと開発者に駆けより金貨を積んでいく、そんな各国を開発者は顎を傾け鼻で笑い売り値を吊り上げていく商売人だ。
開発者は各国に少しづつ値を上げていき互いに競りをやらせ大儲けの絵図を描き毎晩祝杯ともいえる酒を食らい笑いが止まらない……その開発者でありながら商売人の男が。
「ヒヒッどうだい、気に入ったかい」
「俺のいた世界とは科学の進歩が桁外れだな、感謝するウィル」
「そいつには俺が魔法破壊を仕込んどいたからな、魔法使ってくる奴には絶大な威力だぜ」
ユウヤは懐から革袋を出しテーブルに置くと重量がある音を鳴らし中身が少しこぼれてしまう、完成の祝杯をあげ酒を飲んでいたウィルの顔が酔っ払いから素の顔に戻っていく。
「追加報酬だ、魔法破壊なんて代物と何よりこいつは紛れもなく業物……イリアの紹介通りいい腕だぜあんた」
「金なんていらねぇよ、とっとしまいな」
ユウヤは唖然とし革袋から離そうとした手が止まってしまう、目の前の鍛冶屋は報酬はいらないと言っている、金は命と同等までと言える存在なのにとユウヤは考えウィルの行動がますますわからない。
「金なんてこれからいくらでも国からガメられるからな、それよりお前そいつを何に使うんだい」
「こんな戦い溢れる世界にきたんだ、どうせなら楽しまないとなぁ~人殺しの道具に使わせてもらう」
「ヒヒッてめぇは根っからの殺人者の目してやがる、イリアから聞いたぜベルカに喧嘩売るんだってな」
黒鞘に収め椅子から立ち上がりウィルに背中を向けた、ウィルにはその姿が純粋に遊びを楽しむ子供のように見えてくる……ユウヤには殺すという事に一切の迷いもなく時には楽しむという異常さがあり、それゆえ才だけでなく努力を惜しまず確かな腕まで鍛え上げてしまう。
扉を開けると眩しい日光とオイルの匂いが鼻につき作業着を着た男達が行ききする工場地帯のような街に出る、大きく背伸びし首を傾けると隣から大きな影が現れた。
「待たせたなハンク、傷の具合はどうだ?」
太い腕を組み大きな顎の上から覗かせる瞳でユウヤを睨むと額をかきながら少し言いづらそうに口を開く。
「問題ない、しかし遅れをとったのも事実……ユウヤまた俺と遊んでもらおう」
「嫌だね!! お前と遊ぶと本気になって危ないんだよ、この前だってイリアに止められなかったら」
「時にユウヤ、お前イリアの事どう思っている」
太い声色で冷静に聞いてくるがその顔は少し視線をずらしユウヤから顔を背けてしまう、ここまでわかりやすい奴だと思うと腹を抱えて笑い転げそうになるがグッと堪えてハンクの肩を軽く叩く。
「どうもこうもねぇよ、まだ会って一カ月だしなぁ~ハンクよぉ傭兵稼業なんてしてんだ、お互いいつ死ぬかわかんないよなぁ~」
「む、何が言いたい」
「こんな大きな図体してビビッてんじゃねぇよ、今度イリアを食事にでも誘ってみろよ~勿論二人っきりでな」
腕を組み何回か頷くと斜め上を見てハンクは数秒停止してしまう、ユウヤの言葉で何かを納得したのか一人で歩いていってしまいユウヤが追いかける形になる。
「ユウヤお前の言う通りだ、待つのは性に合わんからな今から誘ってみるとしよう」
「おい待て!! 今はイリア遠征中で戻ってきてないぞ」
「ならば遠征先までいって食事に誘うとするまで」
腕っぷしはユウヤが認めるほど強くこの一カ月の戦場で何度も命を救われたが、色恋沙汰になるとまるで中学生のようなハンクの肩を掴み抑えるが圧倒的な体格差でユウヤは引きづられながら街を出ていった。




