外伝第二章
鍛冶屋は真っ赤に燃えている鉄に魂を込めるようにハンマーを振り下ろす、長年繰り返してきた作業だが不思議と今回依頼されてきた武器を作るのは楽しさを覚え初めて鉄を鍛え上げた時のように好奇心で笑ってしまう。
一か月前店に突然黒ずくめの男が現れると薄い皮に炭で書いた設計図を出して細かく説明してきた、素材の混ぜ方や火の温度までと、まるで本職かと思う知識を鍛冶屋に見せびらかした後に金貨だけ置いてさっていく。
「なんだこりゃ」
報酬を貰ったからには仕事をこなすと意気こんで設計図を眺めるとそこには見た事もない武器がある、切っ先から柄の底までが初めて見る形で何より細い、設計図だけではわからないと早速作業に入り数日。
失敗……失敗と何十の失敗を重ね気づけば睡眠を忘れていた、失敗続きなのに鍛冶屋は楽しい、少しづつではあるが完成に近づき作り出す武器の美しさに酔っていた。
「こいつはたまんねぇなぁ」
今まで作ってきた剣よりも細く鋭い刀身に小さな柄……この武器は【斬る】という一点だけに集約された究極ともいえる特化した剣であると気づく、ハンマーの一振りで折れる事も何回もあるが長年の経験で一回の失敗から数倍の成果を上げていく。
やがて床の半分が折れた刃で埋まる頃に鍛冶屋は一本の剣を目の前に座る、まだ完成に至ってないが一ヶ月間で紛れもなく最高傑作……赤子を抱くように繊細に鉄を砕くように力強くと使い分け徐々に鉄は形を変えていき鍛冶屋の心を震わせていく。
「ふぅ」
夜通しで鍛えに鍛え上げた鉄は火で溶かされ後に水で冷やされと繰り返し形を整えていく、窓から朝日が入り込み刀身に反射すると鍛冶屋は腕を組み子供のように飛び回り拳を振り上げて喜ぶ、こんなにも充実した時間は何十年ぶりだろうかと思い大きく息を吐いて座る。
「綺麗なもんだ」
刀身を柄と合わせ鍔と呼ばれる部位をつけると設計図の中身は実体化した、今まで作りあげてきた武器は鈍器のように重く太かったがこれは逆――叩きつけるのではなく斬るという行為だけに考えられた剣。
「おいウィル出来たかい」
丁度いい所に扉は開けられ今回の依頼主がきた時と同じく真っ黒な服装で顔を出すと、ウィルは自慢気な顔で人生で最高傑作とも呼べる剣……のちに刀と飛ばれる武器を差し出した。
「確かユウヤとか言ったな坊主、ハハッどんなもんだい!! てめぇの依頼通りの物作ったぜ」