八
ハンクは自分を百戦錬磨と誇っていたが勘違いと思い唇を噛む、目の前のテツよりニノを大きく見た結果鎧を砕かれるほどの一撃を受け立っているのが精一杯だ、腹部の装甲を根こそぎ持っていかれ鎧ではなく生身だったら確実に拳は背中まで貫通していたであろう。
狙うは一撃……それも大きいのではなく戦斧さえ触れれば腕だろうが脚だろうが氷づけに出来る魔法を持っている、追い詰められてるはずなのに口元が緩んでしまう、傭兵稼業はこれだからやめられないと思い大きく構える。
「ぬぅうん!!」
予備動作は小さく最短で最速の突きを出すとテツも無駄なく避けていく、ハンクにはリーチという武器があり突き続けている限りテツは近付けず睨む事しか出来ない。
持久戦になればハンクに分がある、テツは的を絞らせないため動き続けてるがハンクは動かず集中できるため体力が無くなるまで待てばいい、これが見た事のない拳術に対して出来る唯一の方法と考えつく。
「ハァハァ……ッ」
現役の頃だったならばこんな運動で息切れしなかったが現役引退して数年のテツには厳しい、点で突いてくる突きを避ける事に神経を擦り減らせ常に動き続ける運動は容赦なく体力を奪う、体力が無くなれば反応は鈍くなり隙を突かれ殺される。
しかも戦斧が霞めた前髪が凍りつき触れた物を全て凍結させてしまう事実をしりテツは焦る、あの巨大な得物に触れる事なく懐に潜り込む……一度深呼吸し構えを解く。
「――フンッ!!」
畳んだ腕を伸ばし大きく振り被りテツが走り出し何の工夫もなくハンクの間合いに入ると容赦なく突きが飛んでくる、持久戦でも駄目で近付けさえもしない……ならば狙うは一つ、それは自殺にも似た戦法。
「そぉおおおりゃああああ!!」
戦斧の切っ先は正確にテツの眉間に飛んでいったが途中障害物が現れる――拳だ、全体重を乗せ振り抜いた拳は戦斧と激突しホールに金属音が響くと同時に片腕は凍りついた。
肩まで凍った腕をダラリと垂らすとハンクが戦斧の異変に気づく、切っ先から光が漏れだし数秒後には爆破し形を歪めテツの狙いがわかる。
「武器破壊とはな、しかし片腕で何が出来る」
「片腕で十分さ、武器を失ったお前を倒すにはな」
破壊され魔法機能を失った戦斧と片腕を氷づけにされた元ボクサー、互いに出来る事は多くなくハンクが火花を散らす戦斧を上げテツが片手を構える、二人は呼吸を合わせたように動き出した。
「そこまで!!」
氷の世界になったはずのホールに亀裂が入る、亀裂は広がりやがては粉砕……天井の氷は砕かれテツとハンクの間に舞い降りてくる、二人に剣を突きつけ動きを止めて立ち上がるのは一人の女性。
「もはやパロは落ちました、傭兵である貴方はまだ戦いますか?」
マリアが膝をつき剣を向けるとハンクは黙り戦斧を下ろす。
「正論だな、報酬分の仕事はしたつもりだ……お前名前をなんという」
「テツだ」
「ふむ、また会おう」
先程まで獣のような殺気を放っていたハンクは背中を見せ軽く手を振り去っていく、姿が見えなくなるとテツが倒れ込み片腕の激痛に声を上げるとマリアが軽々担ぎ上げ出口に向かう。
途中ニノも拾い上げ城を出ると歓声が街中に地鳴りのように響いていた、テツはこの時痛みで目蓋すら開けれなかったが連合軍の声で勝利したとわかり安堵の息を吐く。
ニノはようやく自分の力で立ち上がり勝利の声に包まれる街を見下ろし思い出すかのように一言だけ言葉を漏らす。
「ユウヤ」