六
細い路地裏を進んでいくと暗闇の中でもうっすらと見えてくる人影、壁にもたれるように倒れ苦痛の声や中には既に息をしてない者がいる、フェルは邪魔ともなれば蹴り飛ばし進んでいく。
腕を組んだ男達がジロジロ見てニヤつきフェルを見るが剥きだしの剣を見ると目を反らす、後ろからついていくテツさえも脅えてしまう、殺気がなく隙だらけのように見えるが背筋を凍りつかせる気配……フェルは氷のようだった。
「つきました」
暗闇の路地裏を抜けると錆びれた倉庫につく、所々外壁が剥がれ内部から光と下品な笑い声が漏れてきている、入口に暇そうに座りながら喋る男を二人確認するとフェルは真っ直ぐ進んでいく。
さすがにテツが止めようとした瞬間には二人の首は刎ねられ残酷な光景に体が固まってしまう、自分の半分くらいの年齢の女の子がなぜにここまで躊躇せずに殺せるのか……テツは考える事すら馬鹿らしく思えてきた。
「すいません少し待っていてもらえますか、すぐ終わるので」
テツを残し倉庫内に入っていくと怒鳴り声が上がるが――金属の擦れる音、おそらくフェルが刀身を切り離し鋼鉄の鞭を振るう音だろう、床や壁を切り裂く音が何度も聞こえると怒鳴り声はなくなり苦痛の声が聞こえてくる。
倉庫内から逃げ出す一人の男が出てきた瞬間にワイヤーつきの剣が喉に絡まり目を反らしてしまうほどに無残な死に方をしてしまう。
最後には全身切り傷だらけの男がゾンビのようにヨロヨロと歩き倉庫を出た瞬間に倒れテツに手を伸ばす、ただ一言「助けて」と。
「終わりましたテツさん、入ってきてください」
倉庫内は先程の酒場の惨劇が可愛くみえるほどに無残で残酷な世界になっていた、顔手脚……それぞれ切り落とされ死へのカウントダウンで泣きだす声や倉庫の天井まで飛ばされ鉄骨に体を預ける者が散乱しテツは再び吐いてしまう。
フェルは美しい銀髪を返り血で鮮血に染め残った一人の男に剣の切っ先を向ける、上半身裸で手にはロングソードを構えているが全身に汗を浮かべ震えている。
「テツさんこいつが盗賊の頭です、殺してください」
「ウェ……お前…オェ、ふざけるなよ」
「いいから殺してください」
表情一つ変えず血だらけの髪を払い床に鮮血を落としながら言う、盗賊の頭は覚悟決めたように構えテツも前に出て腰から剣を抜く、言葉は必要なく互いに呼吸を整え緊張を全身に走らせる。
「もしこの人を倒せたら見逃してあげましょう」
その言葉を聞くと盗賊の頭は笑い大きく剣を上に掲げ振り下ろす、互いに武器が届く間合いではないとテツが首を傾げると火炎が剣から出現する、火炎は玉となり真っ直ぐ向かってくるが間一髪テツが避けると舌打ちを鳴らしながら盗賊の頭は笑う。
髪を数本焦がし後ろを見ると入口にあった分厚い扉は溶けていき直撃をもらった時の姿が想像出来る。
「テツさん相手は炎系の武器ですよ」
「言われんでも見ればわかるわ!!」
「剣での戦いは見せてもらいました、魔法ではどうしますか」
近づくしかない、あんな炎の玉を何発も撃たれたら回避できる自信ないとなると必然的に接近戦になる、次弾を装填中なのか相手の剣から奇妙な機械音が聞こえテツが一気に間合いを詰めていく。
ふいに盗賊の頭は剣を地面に突き刺す、テツは不思議に思うが遠距離のままでは勝負にならないと構わず走り抜けるが魔法の恐ろしさをここで初めて教えてもらう事になる。
「おっさん!! 悪いがここで死んでもらうぞ!!」
地面から火柱が立ち上がりテツを一瞬包む、炎の中でもがき苦しみ一瞬だったが肌や髪を燃やされ地面に転がり体についた炎をかきけす、盗賊の頭はここぞとばかりに転がっているテツに剣を振り下ろすが運悪く一撃を外してしまう。
難を逃れたテツは立ち上がり息を吐くと黒く数か所火傷をし焦げ付いた学生服を脱ぐ、痛みより怒りの方が勝り大技を使いすぎてオーバヒートした剣を持つ盗賊の頭に斬りかかる。
「ぐぅうううっ!! おっさんがぁあああ」
よく見れば盗賊の頭はまだ若く表情を険しく怒りに変えていく、剣と剣をぶつけ金属の破片を落としていくがこの時に勝負はついていた……親指をスイッチにかけ押し込むと刀身は水に包まれダイヤモンドすら両断する水流の剣に姿を変え全てを斬り払った。
盗賊の頭が持つ剣はもちろん、その後ろにあった体をも両断し肩から胸にかけて大きく斬り裂き勝負を決めた。
「お見事!! さすがテツさん私の見込み通りです」
この街にきて初めて見たフェルの笑顔は可愛らしく眩しいがテツには返事を返す余裕はなく膝を地面に落とす、最後はフェルに担がれテツは倉庫を後にする。
たった数時間で盗賊を皆殺しにしフェルの言う楽しいピクニックは幕を閉じた。