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元の世界の自分の部屋より大きい風呂に入り湯上りにデザートも食べ一人では大きすぎるベッドで寝た、これ以上ない贅沢をしテツは満足しここが戦いに溢れる戦乱の世界だという事すら忘れ熟睡する。


朝はメイドに起こされ見た事もない食べ物がテーブルに並び一口食べれば口の中がとろけるように甘く、その日は朝から夢の続きを見ているような気分だった……昼までは。



「さぁテツさんピクニックですよ」



「あぁ、楽しいピクニックだよな」



連れてこられたのはスラム街、汚らしい服を着て物乞いする老人やナイフを舐めながらこちらを見てくる危ない人達の溜まり場――たまにフェルの美貌に近づいてくる輩がいるが昨日テツの真似ごとが気にいったのか殴り飛ばし解決。


二人は学生服で目立ち路地裏を一本抜けるたびに柄の悪い連中のレベルも上がり、テツは恐怖してしまう、普通の悪人ならまだしも根ッ子から悪人のような顔や目がどこかへトリップしてるような連中になってきている。



「あの可愛いフェルちゃん、ピクニックって何するの」



「やだ誉めても何も出ませんよ~盗賊退治です」



「……え」



大通りに出ると薄紫の光とスモークが焚かれ怪しい雰囲気のスラム街中心に出た、先ほどよりも小奇麗な住民が歩いているがどう見ても一般人とは一線を引いている、腰には武器が携帯されどれも凶悪的な武器だ、ナイフから始まり剣……はては巨大な斧を背負う物もいる。


フェルは迷わず酒場の扉を開けるとつけられていた鈴の音が鳴り来店と同時に屈強な男達の視線が集まる、フェルを見て口笛を鳴らしながらニヤニヤする連中や舌打ちを鳴らす娼婦、席に着くと両手を組んでフェルの顔から余裕がなくなる。



「テツさん貴方に試験を与えます」



「え~はい、穏便なのでお願いします」



「学園長からの命令でもあるんですが私からもお願いします」



カウンターに指を立てて何かの注文するとマスターのやつれた中年男が苦笑いしながら持ってきたのは牛乳……酒場で牛乳という組み合わせに他の客が吹き出すがフェルは気にも留めずに飲む、人生の道から外れたならず者達に囲まれた状況でテツはフェルの落ち着きが羨ましくなっていく。



「テツさん貴方に人を殺す事に慣れてもらいます」



「もう一度いいか、今なんつった?」



「未だに初めて人を殺した事が頭から抜けず脅えていると聞きましたのでいい解決策を提案します……殺しまくってください、気にもならないくらいに殺してください」



目の前の美少女は鼻の下に牛乳をつけ愛らしい笑顔でとんでもない事を言い出す、フェルの提案は確かに言われてみればそうだが正気の沙汰とは思えずテツの顔が固まる、それはテツが人としてどこか壊れなければ出来ない事――大量殺人を意味していく。


今は魔王と戦争中であり道徳がどーのこーの言ってる場合ではないのはわかるが体が震えてしまう、いくら覚悟を決めても体は恐怖に正直で指先が痙攣し嫌な汗が出てくる。



「やはりまだ無理みたいですね、私がきっかけを作りましょう……運がいい事にこの街の連中は魔王軍に媚を売る最低人種です、何人殺した所で問題はありません」



昨日まで見せていた年相応の可愛らしい表情はフェルにはもうなく腰に備えていた剣の刀身が伸びている、蛇腹剣はいつのまにか酒場の床に蛇のように伸ばされフェルが立ち上がり腕を上げると地面を張っていた蛇が獲物に喰らいついていく。


テーブルや椅子はもちろん客の大半は一瞬で餌食になり酒場は地獄絵図になっていく――この瞬間にフェルが言う楽しいピクニックが始まる。


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