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   ――金は神だ――


人は金のために勉強し金のために受験し金のために学歴をとる。

社会に出れば金のために人生の半分以上を費やし働く。

まるで神を拝めるように文句も言わずただ金のために働く。


金は人間の大半を支配し人間の時間を奪っていく、神にも等しい存在である。



「神様よぉ~」



そんな33歳にしては幼稚な考えなテツは自ら神と言う金に嫌われてるらしい。

雨の日の仕事は最悪だ、カッパの中は蒸れるし工事は遅れて残業、ヘルメットから落ちる水滴の数を数えながら今日も元気よくやる気なくテツは金のために立っている……雨の日は憂鬱になり妄想なんて膨らみはしない。



「おいテツ、暇だぞ」



トランシーバーからニノの愚痴が聞こえてくるが無視、新人であるニノの教育係に任命されたテツはこの数日でいろいろとかわった、顔は無表情だが意外にお喋り好きだが喋ってる時も無表情、しかしめちゃくちゃ可愛い所はテツには重要、仲良くなると敬語をやめた。



「さっき昼飯休憩とったから後……4時間の辛抱だ、ニノ交通量はどうだ」



「車などこないぞ、もう座っていてもいいだろ? 足腰が痛いんだ」



「駄目だぁ~一応形だけはしっかりな、要領よくサボれ、後見つかるなよ面倒だから」



無線を切った後に一応ニノを遠くから眺めていると最初は地面を蹴ったり石を投げたりとまだ許せる範囲だったが、やがては工事現場の看板に興味を持ったらしく看板の目の前でシャドーボクシングを始める。


中々軽快なフットワークで左右に拳を振っている、テツはニノが勢い余って看板を殴るのではないかと心配になる、対戦相手を想定してるのかニノは看板の回りをグルグル回りシャドーボクシングを続ける、だんだん乗ってきたのかニノは更にスピード上げて……


看板を蹴り飛ばした。



「おいぃいいいいいいいいいい!! ニノぉおおおおおおおお!!」



「うわぁ!! ビックリしたじゃないか、どうしたテツも暇なのか」



「てめぇシャドーボクシングしてんのに最後は蹴りなんだよ!! せめて殴れよ……じゃなくて看板壊すな!! 見つかる前に元に戻せ」



そんなこんなで仕事は終わり楽しい帰宅タイムだがテツは憂鬱だ、事務所に伝票を届けないといけない、事務所には仕事にうるさい先輩達が何人かいて顔を合わせてよかった事など一度もない一度もだ。


事務所に入るとさっそく先輩の一人がいる、新人相手に仕事の何たるかをホワイトボードを使い細かく説明してるが新人達は見てわかるようにやる気がない、交通誘導員をやる気満々で面接にきた新人はテツは見た事がない、隠れて伝票だけ置いて帰ろうとすると。



「よぉテツじゃないか、どうだい最近は? ちゃんと車捌けてるか?んん」



「まぁボチボチ頑張ってますよ先輩、それより新人達をあんまりイジめると辞めちゃいますよ、帰してやんなよ」



テツの言葉に新人達の表情が明るくなる……そりゃそうだ、8時間以上も雨に打たれて事務所に帰ってきた途端に先輩の講座が始まるんだ、早く帰りたいに決まっているのに。


先輩はどこか不機嫌になり腕を組むとどうやらまだ帰す気はないらしい、そして更に不運が続いてしまう、テツの横にいるニノを見て笑うと近付き腕を掴む。



「お前が噂の新人かぁ~どれ俺が誘導のタメになる知識を」



「嫌だ!! 触るな」



それはテツが初めて見るニノの拒絶だった、腕を振りほどくとテツの後ろに隠れ顔だけ出しジ~と先輩を睨む、まるで子供のような行動に事務所の誘導員も注目し先輩の怒りも上がっていく。



「テツぅ~新人の教育頼むぜ、俺は男女関係なく厳しく」



「馬鹿アホ!!」



先輩の言葉を途中でブッた斬るような暴言で事務所の空気は凍りつく、今は社員の人は外に出てて定年を迎えたおじいちゃん達が奥で茶を飲んでいる……つまり先輩が一番偉い立場、それに馬鹿アホと言ったニノは変わらずテツの後ろから顔だけ出す。



「あ~先輩、この子扱いが難しくてぇ~あの聞いてます?」



「テツ俺はお前の事を評価してる、黙々と仕事をこなす姿勢はいいと思う……だがなぁ、今の発言はなぁ」



「自分が偉いとでも思ってるのか!!」



ニノの言葉でテツの背筋に冷たい汗が流れる、先輩は仕事に誇りを持っている、その先輩に暴言だけではなく仕事上での立場をけなすとは……次の瞬間には先輩がニノに腕を伸ばしていた、反射的にテツはその腕を弾いてしまうと自分でも額を抑えたくなる。



「先輩暴力はいけませんよぉ~人の上に立つ人ならなおさらね?新人の言う事ですし」



「何が人の上に立つだ!! 300円しか給料が上がらない資格持っているからって偉そうに、30過ぎて誘導員なんて夢も希望も無いと言っていただろテツ」



大きく溜め息が出てしまう、まさかニノに愚痴った事が本人に全て伝わるとはと目蓋を閉じる、これは痛みへの下準備だ、先輩の次の行動が嫌でも予測出来てテツは目蓋を閉じて……地面に転がった。


先輩の拳は見事にテツの頬に当たり鼻からは血が噴き出す、痛みで景色が歪んでいるとニノが心配そうな顔でゆすってくる、この時初めてニノの無表情以外の顔を見たテツはそこで意識を失う。




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