二
そもそも移動手段が馬である事の時点で気付くべきだった、そこは街と呼べる場所ではなく村……家は木造とレンガで作られ水車が回っているほどだ、そして何より人種の違い、茶色から始まり青金紫とまずここが日本でない事がわかる。
馬を下りて村に入るとユウヤは目立つ、全身黒の服装は昼間の田舎町では場違いで何よりもユウヤ以外に黒髪はいなく村人の視線が背中に突き刺さるが気にしている場合じゃない。
「電話、せめて日本に繋げる電話さえあれば」
「止まれ」
街に入り数分で呼び止められ振り返ると全身鎧で武装した男がいて先程の野盗とは違い強いとすぐわかる、村の警備だと気づくが警備員にしては装備も武器も強力な物を揃えている、片手には巨大な槍を持ち矛先が歪曲に曲がりユウヤは初めてみる武器だった。
「お前が乗ってきた馬に村から奪われた食糧があった、どーゆ意味かわかるな」
今日は本当に運がないとつい額を抑え空を仰いでしまう、もはやいい訳できる状況じゃないとわかり素直に謝った所で許す気配がない、村人は慣れたように家に入り気づけばユウヤと鎧の男だけになり微かな風が通り抜け空気でわかる。
鎧の男は間違いなくユウヤを許す所か殺す気だとわかり渋々腰からナイフを抜く、こうなってしまえばいい訳を自分から捨てるのと同じでユウヤは覚悟を決めた。
「盗賊め、覚悟しろ!!」
一歩目を大きく飛ぶように踏む込む大地を脚でしっかり掴み溜めた力を解放――槍は空気を突き破り鎧の男が授けてくれた加速と力で獲物に喰らいついていく、対するユウヤには回避以外の選択肢はない、刃渡り40程度のナイフで受け止めたら間違いなく折られ胴体を貫かれてしまう。
しかし避けたとて槍の間合いは縮まらず二発目で仕留められる、ならばいくしかない、身を低くし槍に真っ向から顔を突き出して1秒にも満たない瞬間ユウヤは槍を見切る。
頬の皮一枚持っていかれ血を流すがその代償は大きく間合いは零となる、まずは鎧男の片腕を背中に回しナイフを兜の隙間に入れて喉元に冷たい刃を当てて声を低くし脅すように語りかけた。
「あの馬はこの近くの盗賊から奪ってきた物だ、俺はこの村に初めてくる」
「グッ嘘をつくな!!」
「そもそも俺が盗んだならなぜ戻ってくる、そんな馬鹿がこうしてお前の後ろをとれると思うか」
理屈を並べるが鎧男は断固として拒否し無理矢理拘束を解こうとしユウヤは仕方ないと腕を捻り上げて容赦なく腕を折ろうとした時に。
「待て!! その男の話を聞いてやれ」
男口調だが透き通るような声に見とれてしまうほどの銀髪は褐色の肌によく似合い真っ赤な瞳がユウヤを捕えていた、鉄の胸当てをした女が後ろに数人の部下を引き連れユウヤの前に現れる。
ユウヤはより一層警戒し喉元に突きつけたナイフを更に深く当て血が滲みでてくる、褐色の女は武器を捨てて近づいてくるが警戒は解かずにジリジリと距離を詰めていく。
「お前がただの盗賊でない事は動きでわかった、とりあえず部下を離してくれ」
「……」
勢いよく鎧男を突き飛ばすとナイフを前に突き出したユウヤを見て褐色の女は笑ってしまう、これほどまでに臆病な男は初めて見たと言い握手をするつもりで手を出してきた。
「私はイリアだ、どうだこの先にある料理が美味い店で話しを聞かせてくれないか」
ムスッとしたユウヤに対しイリアは綺麗に整った笑顔で近づいていき、ようやくユウヤはナイフを腰に収め深い溜息をついて腰に手を当てた、今の現状を知るには現地の人間に話を聞くのが近道だと自分を納得させる。