外伝第一章
青年の名はユウヤ。
年齢20歳。
職業掃除屋、またの名前は殺し屋。
ユウヤは一仕事終えて雨に中を帰っていくはずだった、体を包むような黒いロングコートが仕事先でのトラブルで赤く染まっているが雨で流され丁度いい、路地裏を曲がり更に暗い路地へと進み追手を振り切る。
今回の仕事の相手はまずかった、いつもの数倍の報酬に目が眩み装備も防弾チョッキに使い慣れた銃と腰に刃渡り40センチのナイフにしては大き過ぎる得物を腰に備え準備万端だったはず……ある倉庫で取引がありそこに組織の頭がくる。
簡単な内容だった、倉庫に潜り込む依頼主が用意したライフルを回収して狙撃――この世界でもう5年以上飯を食べてるユウヤには失敗する要素はない、しかし狙撃するには倉庫内と近過ぎるのが難点だが報酬を目の前に頷くしかなかった。
「……ッ」
鉄骨の上に寝そべり腕のブレを極力無くし狙撃体制に入り息を殺す、黒髪に黒い瞳と日本人特有の外見は闇に溶け込み存在すらも消しさる、遠距離ではなく中距離を想定されたライフルは連発式になり一撃で決めなくていいが今回ばかりは一撃で決めないと命に関わる。
やがて倉庫前に一台の車が止まり見るだけで柄の悪さが滲みでるような連中が下りてきた、最後に出てきた老人が杖をつきながら部下に支えられ近づいてくる。
「ふっ……ッ」
呼吸を止めて神経をスコープの中の世界と指先に集めていく、胸の鼓動を消すように全身の体温を落とし感情すらも消し去りユウヤは一本の指を動かす、第二関節を曲げて絞りこむように引き金に力を入れると。
「ん、おい」
小さな影に気付いた瞬間に猫の泣き声が響く……神の悪戯かいつのまにかユウヤの後ろにきていた猫がなつくように脚に体を擦りつけて鳴いた、この時ばかりは表情が少ないユウヤも背中の寒気で顔を崩してしまう、気づくと下からは無数の弾丸が駆けあがってきて鉄骨から火花が出ていく。
「クソッ!!」
弾丸の雨の中鉄骨を走り抜け2階の窓からガラスを突き破り雨が降る中のコンクリートに体を落とす、受け身に成功するが全身が悲鳴を上げている、気にしてる余裕はないと振り返りライフルを連射しながら逃げる。
倉庫外の遮蔽物に身を隠しながらライフルで一人づつ確実に殺していくが相手の数に対してユウヤは一人と少しづつ囲まれていく、銃器を持ったチンピラ風の男やスーツにマシンガンの男がジリジリ囲んでくる、最悪な事にライフルの残弾もつき懐から一丁の銃を取り出す。
「ヤバイ、くそどうする!!」
拳銃の標準を合わせまた一人、隙間を見つけては走り抜け路地裏に迷い込む、そこで脚から血が垂れているのに気付き舌打ちを鳴らし脚をかばいながら走っていく、そして曲がり角を通り抜けた瞬間に……ユウヤの額から血が葺いた。
鉄パイプで見事に脳を揺らせ意識が遠のいていく、相棒の銃は地面に転がり殴りかかってきた敵が勢いよく蹴り飛ばし闇の中へ――遠のく意識の中で最後に見た光景は老人が杖をつきながらやってきて。
「殺せ」
目の前で銃口から火が吹く光景がハッキリと見えユウヤは報酬に目が眩んだ過去の自分を恨んだ。