七
肉を削ぎ落とす感触、骨を砕く音、目の前の男の顔が戦う表情から苦痛で泣き叫ぶ顔に変わる瞬間……テツは一度振った剣を止められなかった、魔法の勢いもあったが何より怖く加減を忘れ全力で振り抜いてしまう。
肩から腹にかけて鎖骨、肋骨を砕かれ男は自分の腹から出てくる臓器や血潮を両手で受け止め膝から崩れた、口は閉じれずに泡を吹き出し体が痙攣していく、やがて眼球が上を向き白眼になり男はようやく苦痛から解放された。
「あぁ……エリオ俺……あぁ」
気づけば両手は鮮血に染まり顔も返り血で半分は赤い、偶然だった――たまたまの勝利、魔法を使い恐怖で剣を振り抜いただけだったのにテツは人を殺してしまう、まるで敗者のようにテツも膝を崩し自らの手で葬った男の前で声にならない声を漏らしていく。
「ウッ!! オッ……エェ」
強烈な吐き気が込み上がりそのまま顔を地面に向けて胃袋の中身を吐き出す、吐いてる最中は最悪の気分になる、口の中は気持ちの悪い味が広がり喉を液体が通り感触に寒気すらした。
全て出して口の中に残った液を吐き目頭に浮かぶ涙を溢さないと目蓋を力強く閉じて落ち着く、しかし人を殺した罪悪感は重りのようにテツを鎖で繋いで離さなく立ち上がれない。
「テツ!! 立て!!」
汗と涙で酷くなった顔を上げてエリオを見ると戦っていた、槍のリーチをいかした一突きで敵の胴体を貫き電流を流している、敵は一人ではない何人もがベルカの壁を突破しきた……そう気づいた時にテツの顔は跳ね上げられた。
最初は何をされたかわからなかったが顎の痛みと微かに見えた男が蹴り抜いた脚を上げるのでわかる、鼻から血を噴き出しテツは大の字に倒れ蹴られた顎の痛みと衝撃で景色が歪んで見える。
「俺とそう変わらない奴が何で学生服なんてきてる」
汗と泥まみれのシャツに血だらけのズボンを履いた中年男が手に持つ短剣を向け近づいてくる、口の中は鉄の味で中年男の姿はグニャグニャと形を崩し平衡感覚すら失っているテツが起き上がる。
膝に手をつきなんとか立ち上がると剣の魔法を発動……と同時に顔面を殴られ体ごと宙に投げ出された、もう言葉すら出なくなり地面を転がり壁にぶつかりようやく止まる、聞こえるのはエリオの焦りの声。
「おいテツ!! くそ、囲まれてるぞ!! なんでこんなに突破されてんだよ!!」
次々に援軍がきて10人にまで膨れ上がる、ボロボロにされたテツと恐怖で矛先を震わすエリオ、もはや戦闘とは呼べなくなっていく、これから行われるのは一方的な虐殺――テツは壁の石段を掴み立ち上がる、今にも漏らしそうなエリオに向かい歩を進めるがすぐ転んでしまう。
それでも何度でも立ち上がり無様に転ぶ様は他の傭兵の笑いを誘う、最後は這いながらようやくエリオの足首を掴んだその時に。