六
人の叫びや断末魔で地面が揺れ大気が震える――テツには初めて体験だった、街の外からなのにすぐそばで勝利に酔しれる声や死へと向かう恐怖の声が聞こえてくるようだった。
学園にきて生意気な金髪を倒し学園長とも互角に渡りあいどこかで強くなってた気がしていた事に気づく、まだ戦場にすら立ってないのに膝が臆病なテツを笑うように震える。
照りつける太陽の下でテツは額から汗を流しながら軽く目を閉じて考える事は【死にたくねぇ】33年間何一つ成し遂げていなくわけのわからない世界にきて死ぬ……ふざけるなと拳を握り下唇を噛む。
「気負うなテツ、敵が来る前からそんなだと実戦の頃には疲れちまうぜ」
エリオも怖くないはずがないが軽々しい態度でテツの背中を軽く叩いてくれる、今のテツにとってはそれすらも救いになり雲に隠れた太陽を眺め大きく息を吐く、気負うななど到底無理だろうがせめて今だけは落ち着こうと努力はしてみる。
「エリオお前なんでこんな学園に入ったんだ、ここがどーゆとこかわかってたよな」
「学もねぇ平民、何かに特化した能力もねぇとなると命をかけて生きるしかないってこの前言ったろ? 確かに好きでこんな所きたわけじゃないが生きるためだ」
生きるために他人を殺す、そんな考えテツには理解どころか正気の沙汰とは思えないがこの一カ月でまがいなりにも学んだ事だ、平和の世界を勝ち取るためには殺して殺しまくって勝たなきゃいけない――太陽が少しづつ雲から顔を出してきて光に目を細めながら理解に苦しむ、そんな殺しまくった世界は平和なんだろろうかと。
日差しが強く目の上に手の傘を作りようやく視線を下界に戻すと奥の草が揺れる、膝まで成長した植物をかき分けるような音が聞こえてきてテツは視線に神経を集中させると。
「グッ……なんだお前ら」
被っていた兜は半分破壊され血を垂らした顔を覗かせ使い物にならないのか肩腕は垂れてもう片方の手で刀身に亀裂がはいった剣を持つ戦士、鎧も亀裂だらけで血が隙間から垂れてる。
殺気でわかる、敵だと……テツは身構え鞘から剣を抜き構える、恐怖より前に体に染み込んだ動きが優先されるが恐怖は消えない、隣にいたエリオも槍を前に突きだすが矛先が震えていた。
「ベルカの兵か、ならば殺すまでだ」
男は多くを語らず痛々しく肩腕を上げて剣を構え走りだす、まるで転ぶかのように体を投げ出しテツにぶちかます、銀の破片が空中に散乱していく光景はテツにはやけにスローに見えていく。
力ではテツの方が圧倒的だったが何か違う物が働きジリジリと剣同士が擦れあい押されていく、血で滲んだ瞳で睨まれテツは震えがる、この男は今まさに命をぶつけてきてるんだと思わせられ膝が崩れそうになる。
「テツ魔法を使え!!」
エリオが腰を抜かしようやく立ち上がって出来た唯一の行動が叫ぶ事だった、柄にある小さなスイッチを押しこむと刀身は水に包まれやがては男の剣を砕きその勢いは止まらず、いやテツには止められずそのまま男の肩までいき……胴体をまるでバターのように切り裂いた。