エピローグ
馬鹿に権力を持たせたらいけない。この言葉を全力で表現した男がいた……世界は二分に勢力が別れ新ベルカ軍と新魔王軍。両軍の最初の仕事は兵集め、先の大戦で損害を受け兵の数が足りず世界中からかき集めた結果軍配は魔王軍に上がる。
ベルカは兵としては雇うが騎士よりは位が低い。それが傭兵の反感を買うが正義を志した若者集まっている。しかし金が目当ての傭兵を圧倒的に多く、それを手にしたのは魔王軍。
魔王軍に確かに上下関係の位はあるが実力さえあれば誰でも上に上がれる。人種も生まれも過去の経歴一切関係なし。腕っぷしさえあれば上に行けるとなんとも馬鹿なシステムで傭兵を獲得していく。
「まったくこんな事でやっていけるんですか」
愚痴を溢しながら城内を歩くのはフェル。参謀に落ち着き魔王を影から支えるが毎日血の気が多い傭兵に頭を悩ませ、各部隊の書類を纏め報告しにいく。
「テツさんいい加減にしてください」
扉を開けると王室に絵に描いたような真っ赤なマントと王冠を被り偉そうに玉座に座る魔王――テツがいた。
「またそんな格好を……少しは我らの王として自覚を持ってください」
「なんでだ? 王様ってのはこんなもんだろ? あ、似合ってないのか!! そーなんだろ」
「もう学園時代とは違うんですよ!! 一国の王なんです!! 今はあのベルカと戦争寸前まで来てるんですよ!!」
テツに捲し立てフェルが一度息を吐き落ち着くと巨大な影が重なり見上げると筋肉の要塞アイリが顔に腫れ傷を作っていた。
「おぉ!! お前の顔に傷なんて作るなんていい新人がいるか!! 連れてこいよ」
「これは少し油断しただけだ!! それにあたいが負けたわけじゃないからな!!」
長い銀髪を動きやすいポニーテールにしたフェルが数えるのを諦めた溜息を漏らす。改めて考えると魔王軍には馬鹿しかいない。脳が筋肉で出来てるような連中の王が更に脳筋ときている。
他国へ攻め込む時は作戦なんてない。圧倒的な物量で押し潰すのみ、テツが指揮をとりながら突撃を仕掛ける一国の王としては考えられない作戦で戦果上げていっている。一応はフェルも護衛についているがあまりにも危険で護衛の身にもなってほしいというのが最近の口癖になった。
「テツさん。昨日、今日と新しく入った傭兵達が小競り合いが絶えません。誰から構わず受け入れるから小競り合いだけで我が軍に被害が出ます」
フェルからしたらこれ以上野蛮な連中じゃなく、ちゃんと選べと皮肉めいた事を伝えたかったが魔王テツは予想より酷い行動をとっていく。
「よしわかった!! 俺が行ってその小競り合いとやらを止めてやる」
「違うでしょうが!! テツさんいいですか!! そこに座りなさい!!」
流石に怒りヒステリックを起こしたフェルが魔王であるテツに説教をするという不思議な光景にアイリが爆笑し腹を抱えていく。
異世界は二人の日本人によって変わった……殺戮を好みひたすら戦い抜いた先代魔王。その魔王に戦いを挑み敗れ、それでも諦めず再び挑み勝利した二代目魔王。
救世主になるはずだったテツはどこで間違えたか今では立派な魔王になり世界中から狙われる賞金首になり、つけられた賞金は一生遊んで暮らせるぐらいだ。
「聞いてますかテツさん!!」
テツに従うのは竜の子と先代の魔王の娘……この二人の魔王の物語に善人はいなく。誰もが自分の目的のために殺し続け極悪人しかいない。
しかしそんな極悪人の中でも幸せはあった。それはテツが思いがけないような現実的で最後に笑顔にされてしまう幸せだった。
「おいテツ」
「どーしたニノそんな柱に隠れて顔だけだして、顔赤いぞ風邪か?」
「ニノ今大事な話中です。これから我が軍の事について」
戦い、戦い抜き、今でも馬鹿のように戦い。どうせなら世界でも征服でもしてしまうかと考えるが魔王テツはこの時一番驚く。
「その……いいかよく聞けよ!!」
「んだよぉ~ささっと言えよ~フェルが怒るぞ」
「うるさいです!!」
正座をして頭を垂らす魔王が飛び上がるまで後少し。皆が驚きの声を上げるまで後少し――
「テツ、お前の子供が出来たらしい」
「えぇええええええええええ!!」
「――…え!! ニノ……マジかよぉおおおおおおお!!」
復讐の果てに何も残らない、虚しいだけ、よく言われるフレーズだが……おっさんは復讐を遂げて権力、金、力。何より友達や家族を手に入れた。
「中二病も魔王も捨てたもんじゃないな」
正義ではなく悪人の元勇者は魔王城で呟いてこの物語の終焉の一言を夜空に投げつけ笑う。
「さぁ~て次は世界征服といくか!! どうせここまできたなら徹底的に魔王になってやるぜ!!」
元々正義なんて言葉が似合わないテツは清清しい気分で歩き出す。この世界は本当に退屈をさせてくれない。夢や希望よりも絶望や挫折の経験が多かったが、その経験こそが宝になり力になっていた。
「おい皆!! 次に勇者様がきたら皆で笑ってやろうぜ!! どんな馬鹿がくるのか楽しみだ」
「お前より馬鹿はいないだろ。しかしまぁ想像したら笑えるな、魔王と思っていた奴がこんなおっさんだとわかった勇者の顔が」
「まったくですね」
魔王の玉座の間に笑い声が響く。それは学園時代の教室のように素直に笑い、腹を抱え痛めるほどの笑いだった。
人生がリアルで詰んでいた交通誘導員が異世界にきて人生一発逆転を成し遂げ最後には嫁と子供まで授かり笑う……これはそんな物語だった――おっさん異世界ファンタジー完結。