二
王族の衣装を纏ったルーファスが拳を上げ勝利の宣言を高らかに上げ、これまで戦い抜き戦友を失ってきた兵達が涙を浮かべ武器を上げ歓喜している。勝ったのだ、二度に渡り滅ぼされたベルカは数々の友を失ったが勝ったのだ。
処刑台の十字架に縛り付けられたニノとフェルに兵達は憎しみをぶつけていく。魔王の娘だけで憎むには十分。竜など人間全ての敵。
ルーファスの力強い演説が終わると兵達だけではなく、集まっていた住民も落ちている石を手に持ち投げつけていく。この二人のせいで家族も戦友もいなくなったと言うように投げつけいく。
「ニノォオオオオ!! フェェェェル!!」
誰よりも大きく声上げ力強く吼えた一人の男がいた。テツは選択した――異世界で死と絶望と戦い抜き今度こそ仲間を守ろうと。
「これは皆さん信じられません!! 彼こそ魔王を倒した英雄です!!」
ルーファスが一瞬表情崩すが誰よりも先に声を上げテツを英雄という。集まっていた兵達の視線はテツに集まっていく。
坊主頭の筋肉がよくついたおっさん。服装は泥で汚れた革のシャツとズボン。英雄には程遠い服装だったは兵達は拍手を送る。魔王を倒した英雄を称え続けたがテツには屈辱だった。
「フェル!! まずはお前だ聞いてるのか!!」
縛り付けられたフェルが驚き口を開けていると構わずにテツは叫び続けていく。
「エリオはな……お前の事本当に大好きだったんだぞ!! 人の恋愛に口を突っ込む主義じゃないが……あいつ死んじまったんぞぉおおお!! 惚れた女にフラれても、それでも好きで好きでしょうがなく戦いに参加して死んじまったんだぞおぉおお!!」
エリオの無念悲しさを代弁するようにテツは言う。兵達が混乱していくが構わない。
「そんなエリオがさ……お前を救ってやってくれって言ったんだぞ!! 女にフラれて情けなくて格好悪くてどーしようもないあいつが救ってくれって言ったんだぞ!!」
叫び疲れたの一度膝に手をつけて息を整え、まだ言い足りないのかテツは叫ぶ。
「フェルお前を救う。お前の気持ちなんざ知ったことじゃねぇ、待ってろよ今そっちに行くからな」
そこまで言い終わると声が上がる。テツではなく――
「大馬鹿者が!! 何してにきた!! ささっと消えろテツ!!」
「ニノォオオオ!! てめぇこそ人の人生滅茶苦茶にして勝手に死ぬとはいいご身分だなぁ!!」
世界を救った英雄が罪人と口喧嘩をし場は混乱していく。誰もが隣の顔を見て状況が確認できない。
「お前言ったよな!! 魔王を倒したら自分を好きにしていいって!! ならお前は俺のもんだ!!」
「うるさいアホ!! いったであろう!! 人の気持ちなんて簡単に――」
テツはニノの言葉を切るように叫ぶ。
「変わらなかったさ!!」
「なにを……言い出すのだテツ」
「変わらなかった!! お前を一目見た時からこの瞬間まで変わらなかったんだニノ!! ふぅ~」
大きく深呼吸しテツは言う。さすがに恥ずかしいがもう構わない。叶わぬ夢かもしれないが口に出してしまおう。テツは叫ぶ。
「ニノ・クライシス。俺はお前を愛してるんだ、お前を見た瞬間から変わらなかった気持ちだ」
「ななななな何を言うかぁああ!! こここの馬鹿者がぁあああ!!」
「俺は馬鹿だからよわかんねぇんだ。この気持ちどーやったら変わるか教えてくれニノ」
告白を言い終わるとテツは手に持つパンドラを起動し両腕にナイトメアを武装していく。その姿は英雄とは程遠い禍々しい姿にだった。
「悪いなルーファス。こーゆ事だ」
「テツ……貴様、今ならまだ間に合う今の言葉を撤回しろ!!」
敬語ではなくなり額に血管を浮かばせ静かに言うがテツは無視するかのように再び叫びだす。
「俺はなぁあああ!! そこにいる魔王の娘を愛してるんだぜ~しかも竜とも仲良しの英雄だ!! ハハッハー」
我慢の限界がきたのかルーファスは腰から剣を抜きテツに向けていく。
「そこにいるのは魔王を倒しただけでは足らず我らベルカにまで牙を向く俗物だ!! 首をここにもってこい!! テツ……残念ですよ。貴方がまさか魔王と同じ道を辿るとは」
「ヘヘ、ハハハハハこいつは傑作だ!! 今度は俺を魔王にするのかルーファス!! そーやって明確な敵を作って正義を作っていくのがお前のやり方か~まぁいい。なら望み通り魔王にでもなってやるか!!」
大量の兵達が武器を片手に襲い掛かってくる。人の波のように勢いがあるがテツは拳を握り相棒に言葉を投げる。
「まったく本当に馬鹿ね人間。まさかこんな場所で愛の告白なんて、もしフラれたらどーすんのよ」
「その時は……思いっきり笑い飛ばしてくれ!!」
「今でも十分笑えるわよ!! さぁ次の相手はあいつらね。まったく退屈しない契約者ね」
腕を振るえば何人もの人間が空に上げられ数々の魔法を全て燃やし尽くす。数など問題にもならない。人外になったテツの力の前では一般兵など相手にならない。遠巻きで見ていたルーファスの表情が怒りから恐怖に変わっていく。
兵で完全に囲んでいるはずなのにテツは仕留められず。逆にどんどん味方が殺されていく光景に恐怖を覚え叫ぶ。
「その者はもはや魔王と変わらん!! 必ず殺せ!!」
「やれやれ酷い事言う王様だね。仮にも世界を救った英雄だろうが」
声に反応し振り返ると目を疑うような巨大な女がいた。顔は美人なのにとんでもない筋肉……ニノとフェルを縛り付けていた鎖を素手で引き千切ると二人を抱えていく。
「しかし絶景だな~おい見ろ二人共。お前らのためにあの馬鹿戦ってるんだぜ、世界を救った次は世界を敵に回すなんて救いようない馬鹿だねウハハハハハ!!」
アイリは腹の底から笑い飛ばしていく。片手を上げる合図をすると民衆の中から傭兵達が現れベルカ軍に襲い掛かっていく。
「驚いたかい王様よ。テツは魔王を倒した奴だぜ、それだけで人を集めるのさ」
「お前達は馬鹿か!! 黙っていれば勇者にでも英雄にでもしてやるのだぞ!!」
「王様よ。こんな汚らしい奴らが英雄なんて子供の夢怖しちまうじゃないかい」
それだけを言うと二人を抱えアイリは兵とテツが戦う戦場へ飛び出す。残されたルーファスは自慢の金髪の前髪をグシャグシャにし裏切られたショックで膝を落とす。
「離せ筋肉女!! お前はなにをしているのかわかっているのか!!」
「そーです!! これがどーゆ意味なのかわからないのですか!! このままじゃ世界が」
アイリは兵達の間をすり抜けながら二人の言葉に耳を貸すが呆れてしまう。今更何を言うのかと二人の尻を叩き気合を入れていく。
「あの馬鹿がこれからの世界なんて考えていると思うかい? あいつはね……世界なんて物よりあんたら二人を選んだだよ」
テツに近づくにつれ兵は減っていく変わりに死体が増えていき、辿り着く頃には周辺の兵は一層されテツが二人を出迎える。
「テツさん貴方何を考えてるんですか!!」
「さささっきのはどどーゆ意味だテツ……その私を」
一息つきテツは疑問に答えていく。
「フェルお前は死ぬ必要はない。お前の敵は俺が全部蹴散らしてやる、だから死ぬなんて寂しい事言うな……ニノ、言葉の通りだ。俺はお前が大好きだ、頭の先から爪先まで全部だ」
歯が浮くような台詞を言われ赤くなっている二人の手をとりテツは走り出す。もう迷わない、そう誓い許す限り目の前の二人を守り相手が誰であろうと戦って勝利する。
それがテツの新しい旅の始まりである。傭兵達は女と竜のために命を張り世界すら敵に回すテツの背中に魅せられついていく。
「ハハハハハ!! 俺の人生ここから派手に飾るぜぇえええええ!!」
「テツさん貴方何をそんなに嬉しそうにしてるんですか!! これからどーするんです」
「勝手に愛してるとか言っといて……私の話を少しは聞け!!」
テツは異世界で快進撃を貫いていく。それは交通誘導員してた頃より刺激的で最悪だが笑えていた。
おっさんは異世界でファンタジー溢れる人生を満喫していく。




