一
なぁ覚えてるかテツ。
お前を駅前で発見した時の事を、欠伸顔で間抜けだったぞ。それからいろいろあったな……まったくお前には困らせてばかりだったぞ。
しかし期待以上の働きしてくれたな。大儀であったぞ!! 私の私利私欲で利用しているのに文句は言うが利用されてしまう大馬鹿者め……少しは疑え馬鹿!! いつも何も考えてないような間抜け顔でついてきおって阿呆め…阿呆が――…
見てみろテツ!! 今では私は魔王の娘として一身の憎しみを受け処刑寸前だ。こんな大層な処刑台に縛られ最後にしてはまずまずだな。
ルーファスが偉そうに演説しているが何を言っているか興味はない。凄い数の兵が囲んでいるな~まさに魔王の娘の待遇だ。死ぬ寸前でも最高の待遇とは悪役冥利に尽きるなフハハハ!!
ウィルから聞いているぞ。お前は帰れ、帰ってこの世界で積み上げた経験でボクシングでもして稼いで人生を楽しめ。心配ないさ、お前の腕っぷしなら十分稼げるはずだ。
不思議だな。お前と出会う前までは感情なんて無いようなものだった。その気持ちでいいと思っていた。感情なんて邪魔だと――…本当に人の気持ちなんて簡単に変わるものだな。
ニノ・クライシスはテツに最大の感謝と敬意を払いながら死んでいく。
テツお前は勇者になったんだ。もう魔王の娘なんざ忘れていいぞ……
私はもうすぐ死ぬのに何を一人で考えてるんだ。フハハハ!! どうやら怖いらしいぞ、死ぬのが怖い……いや、もうあの間抜け顔見れないのが怖いのかな――…テツ。
覚えてますかテツさん。
あの教室に入ってきた瞬間を。私は息が止まるかと思いました。殺された父親にそっくりで目が離せなくなり後ろの席まできて心臓が爆発するかと思いました。
クラスでは浮いてた私に問答無用で話しかけ私の領域を侵入してきましたね。それから気が合わないニノと私の前ではおかしくなるエリオ……クラスどころか学園全体で変人扱いされいろいろありましたね。
テツさん貴方が私を初めて笑わせたんですよ。貴方のあまりにも子供じみて馬鹿げた行動に感情なんてない私さえ呆れてしまい笑いました。
最強最悪の竜である私を随分と振り回してくれましたね。文句の一つでも言いたいけど無理そうです。
まったく無抵抗な私達を殺すためにこんな兵を集めるなんてルーファスは臆病者ですね。横には泣きそうだったり一人で笑ったり不気味なニノと……やれやれ散々な最後になりそうです。
――お父さん貴方の仇は確かに打ちました。きっとそんな事をなんて望んでなかったでしょう。こんな娘ですいません。
テツさん。こんな竜と遊んでくれてありがとうございます。貴方といる時だけは笑えたり泣いたり怒ったりできました……テツさん不思議なものですね。
貴方と別れると思うと怖いです。死の間際だからなんですかね?
まったく私も随分と臆病になりましたね――…テツさん。
「ニノォオオオオオオ!! フェェェェェェルゥ!!」
魔王の娘と人類を焼き払った竜の処刑場におっさんの声が響く。