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十一

魔王軍の一人が魔王の姿を探し残された野太刀を見て武器を落としてしまう。それを見た傭兵も、それは連鎖のように広がり大将の首を取られた事が勝負の分かれ目となった。何千といた魔王軍の兵は魔王が殺された怒りよりも信じられないという顔をしていた。


その視線の先にいたのは胡坐をかき苦しい表情の顔のテツ。両腕は悪魔に侵食され下半身も膝まで人間を捨てたテツが鼻をすすっている。



「うぅ……はぁ、久々に泣いた。あぁ~泣いたわぁ」



泣いてスッキリしたのかいつもの笑顔でニノとフェルを見上げると表情が浮かない。ニノは親を殺した直後だから仕方ないとして復讐を遂げたフェルまでも暗い顔だった。



「ついにやりましたねテツ」



戦意喪失した魔王軍の中から現れたのはルーファス。テツ達の横を通り魔王の死体があった場所の雪のくぼみを見る。



「アハッアハハハ!! 諸君我らは勝ったのです!! 悪の根源たる魔王はこの瞬間我ら正義の前に敗れ去りました!!」



王が声を上げ勝利宣言すると連合軍が一斉に武器を上げ喜びの咆哮を上げ大地が揺れていく。傷がまだ治りきってないテツは立てないが拳を上げるがニノとフェルだけが浮かない顔だった。



「テツさんすいません。私はここまでです」



「ん? 何を言い出すんだ」



「頑張ったなテツ。お前こそ真の勇者だ」



二人が意味不明な事を言い出すとルーファスがテツの前に立つと説明を開始する。それはテツにとってまさに絶望的な現実。



「私がかつて人類を焼き払った竜と憎き魔王の娘を学園に受け入れると思いますか?」



「……確かにお前みたいな性根が腐った奴にしてはないな。しかし実際学園に受け入れたんだろ」



「条件つきで受け入れたんですよ二人を」



次に並べられる言葉でテツは立ち上がる。治りきってない傷など知るかと目の前の王に殴りかかる事になっていく。



「フェルは復讐を、ニノは魔王を倒したら自害する条件でベルカの力を貸したのです。二人は何の迷いもなく頷きましたよ」



「ルーファス貴様ぁあああああああ!!」



フェルもニノも復讐どころか自分が死ぬために今まで戦ってきた。それを知らない事をいい事に戦ってきた自分が許せない。何よりそんな条件を提案したルーファスを殺したい。そんな思いがテツを動かした。



「貴方は私が出会った駒の中で最高の働きをしてくれました」



テツが立ち上がろうと膝を立てた瞬間に槍が刺さっていく。ルーファスの護衛が容赦なく足に槍を突き刺し串刺しにされ動きを封じられていく。



「その武器には貴方達化け物によく効く薬が打ってあります。貴方の行動は予測してましたから準備はしていました。驚きました? 人間を舐めないでください、我らは進化していくのです」



視界が急に揺れだし眠気が込み上げてくる。薄れていく視界の中で気合を入れ刺さっていた槍を掴み叩き折り吼えながら立ち上がる。



「ニノ!! フェル!! そんな奴の約束なんて果たす必要ないぞ!!」



「すいませんテツさん。竜である私がいると必ず利用する輩が出てきます、私は存在しているだけで危険なのです……テツさんと共に過ごしたこの世界がいつの間にか大好きになっていたんです」



無理矢理に作った笑顔が痛々しいくフェルは笑う。竜である運命を受け入れた上での一族の復讐を果たし最後の処刑台に向かうように背中を向けテツに別れを告げていく。



「フハハハご苦労であったテツ。お前はこのまま英雄にでもなって願ってた薔薇色の人生でも送れ。それが私から手向けだ」



「ニノお前それでいいのか!! お前は平和を願ったんだろ……これからだろうが!! これからお前は幸せになるんだろうが!!」



「確かにそれもいいと思った時期もあったさ、でもなテツ、私の手は父上と同じ血で汚れている。平和の世界には邪魔なんだ――…それに人の気持ちなんて簡単に変わるんだ。お前なんて大嫌いだテツ、二度と顔を見せるな」



テツは肉体のダメージよりも心にフェルとニノの言葉が重く突き刺さる。今まで頑張ってきた事は全て二人を殺すためだけ。その事実が悔しくて悲しくて二人に手を伸ばすが意識が薄れていく。



「さよならだテツ」

「心のない竜によくしてありがとうございましたテツさん」



地面に這いつくばり無残な姿で意識が消える前にテツは叫ぶ。



「心がない奴が泣くかよ馬鹿野郎!!」



最後に肩を震わせ涙を拭うフェルの後姿に叫ぶとテツは意識を失う。





















体が揺れている。上下に微かに左右にそれは心地よく居眠りする電車の揺れによく似て睡眠の誘惑に負けそうになるが最後の言葉が意識を覚醒させる……さよならだテツ。



「お、起きたなテツ。まったく重いんだよお前」



赤毛の後頭部を見るとエリオだと気付く。



「お前生きてやがったな!! 心配させやがってこの野郎!!」



「痛てぇ!! 殴るな、たく命からがら戻ってきたらお前気絶してるし何がどーなってんだぁ」



二人が歩くのはヴァルセルク平原の死体だらけの夜。気付けば時間は深夜になり上を向けば息を飲むような夜空が広がっていた。



「悪い悪い、俺がおぶってやるから変われ」



「こんなむさいおっさんの背中とは……なんて言ってらねぇな。何があったんだテツ」



これまでの事をエリオに説明するとテツの予想とは逆に静かになる。怒り狂うと思っていたがエリオは白い息を吐きながらテツに伝えていく。



「テツお前ニノが好きか?」



「なななにを言い出すんだ突然!!」



「いいから答えろ」



いつものふざけた態度ではなく真剣な表情を肩越しからエリオの顔を見るとテツは答える。



「あぁ好きだ。こんなおっさんがあんな子に本気になるとはな、そそそのどどー思う」



「テツ、ニノを救え。ルーファスの約束とかニノの気持ちなんてどーでもいい。お前が好き勝手して救っちまえ」



学園時代からの親友を背中に抱えテツは星空を見ながら考える。思った以上にエリオは軽く足は軽くなり雪を踏む音だけが二人の間にしばらく流れる。



「それともう一つ。フェルを頼む、あいつは自分が竜だから人間と交われないって言ってが……まさか死ぬから駄目とはなぁ~……ふざけやがって」



「おいおいさっきから人に頼みすぎだろ~救いに行くんなら俺達二人で派手にいくぞ!!」



「そーだな~俺達や今や魔王を倒した英雄……だもんな……今までろくな事なかったが」



エリオも星空を見上げ二人は死体の中を進んでいく。



「――…なぁテツ約束してくれ。必ずニノとフェルを救って幸せなってくれ。誓うんだ」



「ハハなんだいきなり、誓うって」



「……そーだな」



エリオは星空を指差し高らかに言う。



「この星空に誓えテツ!! この空を見るたびに思い出せ……少し臭すぎたかな?」



「確かに臭いな!! ハハ、しかもこんなおっさん相手になんてロマンチックな台詞言ってんだよ~たく笑わせるな傷に響くだろ」



見上げた星空から視線を戻しあまりにも臭い台詞に笑い腹を痛めるエリオに振り返ると、捕まっている力が抜けていきバランスがおかしくなる。



「おいエリオしっかり掴まれ~コケちまっても知ねぇぞ~」



「――…」



「お~いエリオ~寝たフリなんてしてんじゃないぞ~」




ようやく死体の中を抜け一息つきたいと膝を落とし休もうとした時に気付く。




「おい起きろよエリオ」






















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