四
店内に並ぶ剣槍斧、見てるだけで飽きずに魔法つきの武器を初めて手にする生徒達は興奮を隠せない、テツは生徒の中でも特に興奮し店内を走り回っていくと赤い剣や青い槍……子供の頃夢見た世界が目の前に広がり次々に武器を手にとっていく。
しかしウィルの言葉を思い出し念入りに調べる、握りやすさや自分の体格に合っているかと素振りをしたいがさすがに店内では無理だがついてきたマリアが奥の扉を開けると生徒達が走り出す。
店の奥は外と繋がり広場になっていて生徒達が自由に選んだ武器を試している、剣が爆発したり弓矢がありえない角度で飛んでいったりとまさに魔法の世界だと改めて実感する。
「テツにはこれがいいだろ、ほれ」
「ん、なんだこれゃ」
ニノに渡されたのはどこにでもありそうな西洋の剣バスターソードとも言われてる、少し小さめに作られてあり握った感触は悪くなく振ってもそこまで振り回されず中々の使い勝手に声を上げて驚く。
「それは言ってみれば初心者用武器みたいなもんだ、腕が上がるまでそれで我慢しろ」
「なんか初心者って聞くと悔しいが仕方ないな、しかしこれで俺も魔法使えるのか!!」
「柄に指をかける所があるだろ、そこを強く押し込んでみろ」
言われた通りにすると機械音が響き刀身が水に包まれていく、次第に水は回転し刀身を青く染めていき鋭い牙となりテツの度肝を抜いた、水の音とは思えなく全てを切り裂いてるような鋭い音が常に響く。
「おぉおおお!! なんじゃこれ、水か水系の攻撃魔法か!!」
「ウォーターカッターという鋼鉄でも両断してしまう強力な武器だ、強力な分持続時間が少ないから使う場面は慎重に選べよ」
興奮してスイッチを押しっぱなしにしていると武器から鈍い音が聞こえ慌てて離す、持続時間はせいぜい40秒……一度武器を休めると水は消えて機械音も無くなりただの剣に戻る、この武器の最大の利点は高熱でオーバーヒートしそうになる武器を魔法である水が冷やし時間をおけば何度でも使えるとニノに教えてもらいテツのテンションは更に上がっていく。
しばらく回りを見ていると武器が腕ごと掴む斧や一本の矢が放つとショットガンのように散乱していく矢などテツの想像より科学的な魔法だったが気にはしない、交通誘導の時に妄想していた武器が現実に自分の手の中にあるのだ、今夜はおそらく眠れない夜になるだろう。
「よぉ~テツぅ~俺の武器見てくれよぉ~!!」
こーゆイベントが大好きそうなエリオが槍を見せびらかしてくる、無骨で何の装飾もない槍だが先端の切っ先だけは常に微弱な電気が流れていた……確か授業で習った事がある、人を倒すには電気が効率がいいと、しかもリーチに優れた槍と合わさると中々強力だと考え少し欲しくなるが生憎テツは槍なんて扱えない。
「エリオお前わかってないなぁ~お前見た目派手だがら槍選んだなぁ」
「なんだよわかってないのはお前だろ、見た目も重要!!」
二人はお互いの武器を見せびらかしあーでもないこーでもないと楽しげに会話していく、一方ニノは何の武器も持たず欠伸をかきながら座り首をポキポキ鳴らし少し離れた場所にいた一人の少女――フェルを見る。
片手にはテツと同じくバスターソードが握られているがテツの剣に比べ大きい、フェルにはどう見ても大き過ぎるが体を回転させ力ではなく遠心力で振るうと剣は踊るように宙を駆けていく。
フェルが一回転する度に速さは上がり時には鋭い突きも繰り出す、まるで踊り子のようにフェルは踊り続けニノの視線を掴んで離さない。
「さすがランカスターは違うねぇ、あ俺エリオよろしく」
「テツと仲良くなりその勢いで私とも近づきにきたエリオ君よろしく」
「うるせぇよ、いいだろ別に!! てかお前武器選ばないの」
腰に刺してある刀を鞘から抜くと目の前に刀身を持っていき自分の顔を見ながらニノは答える。
「使い慣れた物が一番だしな、それに魔法にばかり頼ると腕が鈍りそうでな」
「変わった形の武器だな~古い機種か?」
「フフッそれはな……あテツ何をしてるんだ」
巨大な弓に剣をかけて全力で引いている、子供のような発想でテツは剣を撃ち出すとあらぬ方向に飛んでいきエリオが爆笑した、しかし飛んでいった方向にはフェルの背中があり気づいた時は遅い。
回転しながら風切り音を鳴らし真っ直ぐに向かう、もう間に合う距離ではないがニノが走り出しエリオもテツも慌てた瞬間に剣は――回転しながら砕け散った、刀身から柄までが一瞬で砕け散り欠片しか残らない。
何もない空間で剣が爆発するように弾けるとフェルが微かに剣を動かし鉄と鉄が噛みあうような音が鳴りニノの動きを止める、背中のまま剣も見ずに叩き落とした神業にニノの好奇心が震えだす。
「テツ君貴方何をしているの」
「あババアこれには海より深い理由が」
「ババア言わないで!! こっちきなさい!!」
生徒達が自分にあった武器を選ぶと店に戻っていくがテツだけはマリアに広場の端っこの方に連れていかれ説教が長く続いた。