三
何度目だろうか。敵のど真ん中に突撃し何時終わるかわからない戦いに身を投げるのは……見えるのは人形のように体を千切られ、体の一部を陥没し飛んでいく敵。力をつけ始めた頃は自分の巨大な力を振るうのが快感だったが今では空しい。
勝利の興奮も敗北の悔しさが薄れていく。ただ生き残り目標に向かい拳を振り抜くのみ、それでよかった。ようやく終われるのだ、ただの交通誘導員の異世界での冒険物語の終わりが――
「だらぁああああ!! エリオ、フェル無事か!!」
いくら走ろうと拳や蹴りを出そうと息は切れず常に体力は最高の状態だった。これも化け物の力なのかと思い地面に転がる敵の顔を踏み抜く。
「どーするよテツ!! 魔王城なんて全然見えないぞ」
エリオが叫ぶとフェルが再び炎を溜める。次の瞬間には前方にいた大量の魔王軍は灰に変えられ降っていた雪も蒸発し冬から夏に景色が変わる。それも歩を進めれば吹雪の景色になり、いい加減見るのが嫌になってきた魔王軍の軍勢が魔法を放ってきた。
「邪魔だぁああああああ!!」
炎や水の刃、風の剣や雷の槍と複数の魔法が飛び出してくるが全ては人間の作り物。テツが扱う本物の魔法の前では紫炎で押し潰されていく。
「ケホっすいません。少し吐きすぎました」
フェルが咳き込み息を整え、守るようにエリオがテツと並ぶ。
「テツ!! 俺は決めたぞ!! 魔王を倒して英雄になり派手な人生にしてやる」
「ハハハそいつは夢のある話だな!! 正義や世界平和なんて物より気合が入る理由だ!!」
転がってる死体を使み上げ投げると魔王軍の壁を突き抜け燃え上がっていく。悪魔に変貌した足腰から繰り出される脚力で敵陣に単身突っ込み手足を振り回すと真っ赤な紅蓮の華が咲いたように雪の上が染まる。
倒れた敵の顔面を蹴り飛ばし、目の前の兜を殴り叩き壊し、殺した敵の足を掴み振り回しテツが昔夢見ていた一騎当千を実現していく。手が付けられない。どんな魔法も武器もテツの前では霞んで見えていく。
「これが夢見た力か……誰からも尊敬され、回りには可愛い女の子、明確なヒロイン――ハハ!! 笑っちまうな!!」
蹴りを鞭のように横殴りに放つと数人纏め吹き飛ばし、矢のように拳を射抜くと鎧の装甲は簡単に貫き……その姿は勇者どころか大量虐殺がよく似合う魔物。周辺の敵を一層すると吹雪の中から壁が出てくる。
「おいエリオ、フェル見えるか」
「ようやくですね」
「ハァハァただの人間にはキツイ道のりだったぜ」
城門は黒光する鋼鉄に竜の装飾が刻まれ、三人は長き道のりを何百という死を積み上げ辿り着く。
「さぁやってきたぞ魔王!!」
敵の血で赤黒くした変色したナイトメアを振りかざし城門をテツはブン殴る。