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翌日緊張と焦りと復讐の嬉しさの感情が交じり合い浅い眠りだったテツが目を覚まし支度をする。テント内に置かれた羊の革で作られた分厚いコートを羽織りパンドラを手に持ちテントを出る。外に出た途端に冷たい風邪と吹雪で斜めに流れている雪で目を覚まし白い息を吐く。



「二度目の光景だが迫力あるなぁ」



丘の上から見下ろすと形となり、見えてきた光景は規則正しく並ぶ白銀の軍団。見える景色の限り並び立ちいったいどれくらいの数はいるかすら数える気にもならない。



「テツさん」



体を丸め小走りにフェルが近寄ってくるとテツも手を上げる。



「いよいよですね。ここまで本当に長かったです」



「竜も寒さには弱いのか? そんな鎧だけで大丈夫か」



「どうせ戦い出せば体は燃えるように熱くなり汗を流します。それに炎を吐けるようになりましたから体内は暖かいはずです」



謎の理屈に眉を曲げテツが不思議に思うが、気がかりが一つだけある。もう軍団に混ざってるのかエリオの姿が見当たらない。テツ自身が言った通り例えエリオが逃げ出しても責める気はない。たった一つだけの目標の戦いそれを失ったんだ。



「俺達に特に指示はない。つまり好き勝手やっていいらしいな」



「その方がいいです。懐かしいですね、テツさんと友達になって最初の授業をしたの思い出します」



「ありゃ酷かったなぁ~酒場で暴れて何人殺した事かぁ~」



昔話をしていると白銀の軍団の行進が始まる。吹雪で先の方が見えないが音でわかる……まず悲鳴。人間が殺され入る声。殺している声。テツ達も丘から飛び降り戦場に降り立つと吹雪の中から飛び散る血が見えてくる。



「だぁあああ!! ちくしょうがぁああああ!!」



テツの正面から黒く武装した魔王軍が現れた瞬間にナイトメアを起動し反撃に出ようとした瞬間に背後から槍が突き出る。矛先は喉元を貫き俄然の敵を一撃の元に殺す。振り返れば槍を肩に乗せ視線を反らし気まづそうにエリオが立っていた。



「いよ大馬鹿野郎~女にフラれても未練タラタラで出てくるとはなぁ~」



「うううるせぇテツ!! 人が一番触れて欲しくない所をつつくんじゃねぇ!!」



フェルもさすがに昨日の今日で気まづいのかモジモジしていると次々に敵が襲いかかってくる。ナイトメアが炎を生み出し腕を振り抜き数人纏め吹き飛ばし道を開きながらテツは言う。



「若いお二人さんよ、そーいう初々しい事は魔王殺してから存分にやってくれ!!」



吹雪のせいで回りの状況を確認できないが敵だからけだとわかる。一面を埋め尽くしていた白銀の軍団と魔王軍はぶつかり合い、敵の血と悲鳴で闘志を燃やし無限の殺し合いを続けていく。



「くそこれじゃ方向がわからねぇ!! エリオ、フェルはぐれるなよ!!」



吹雪の白い景色の中から出てくる魔王軍は装備はバラバラだが全て黒く見分けがついて助かる。魔王の悪趣味のおかげでテツは存分に悪魔の力を発揮出来る。時には魔王軍の一人を捕まえ紫色の炎で燃やしから振り回し、それを魔王軍の中に投げつけると外道の戦いぶりを見せていく。



「エリオ大丈夫ですか!!」



「おぉうフェル、その昨日は悪かったな」



「こんな時になに言ってんですか!! 後ろ!!」



エリオの背後の敵を蛇腹剣で刈り取るとフェルが方向もわからず舌打ちをして頬を膨らませる。



「二人とも下がってください!!」



背を折るように反らせ腹を膨らませ口の中に溜めていく。先祖から受け継がれた力を腹の底から生み出し煉獄の炎を吐き出すと吹雪の中に一本の道が出来る。炎の道にいた魔王軍は一瞬で灰にされ地面の雪は全て蒸発していた。



「フフ……初めて全力で吐きましたが爽快ですね。すぅ――」



再び炎を吐き出すと吹雪の景色が一変する。煉獄で焼かれたように辺り一面は火の海になりテツとエリオが驚く。改めて竜という存在がどれほどのものかわかってしまう。たった一人の女の子が持っている力では大きすぎる。


羽を広げ尻尾を立たせ四つんばいになると炎を見える限りに吐き続けていく。魔王軍はただ一方的に焼き払われ灰に変えられ風が吹くと消えていく。



「ハァッ――!! さぁ行きましょう」



全てを焼き払ったフェルの前には塵一つなく駆け出す。しばらくは敵はいないが吹雪の中を進んでいくと何人も現れテツ達の足を止めていく。



「キリがねぇ……糞が!! どきやがれ」



ナイトメアが炎を燃やし爆発するように吼えるとコートの腕部分は弾け飛び巨大化していく。紫の鱗は分厚い装甲に変わり指先は太く、無骨でただ破壊力だけを追求した形状に進化していく。



「人間だった頃よりも随分進化したじゃねぇかパンドラ!!」



「そーだよ人間!! さぁ存分に殺し、奪い、魔王まで突き進みなさい」



三人は目の前の敵に武器を叩きつけ、頭を割り、腹を串刺しにし、焼き尽くし――進むごとに殺す人数が何倍にも増えていく。返り血でテツとエリオの体は赤く染まりフェルの綺麗な銀髪も色を変えていく。


殴り蹴り掴み投げつける……魔王に挑む勇者には程遠い悪魔じみた武装と戦い方でテツの戦いはラストステージで踊り続けていく。

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