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魔剣は震え鋼の咆哮を上げていく。野太い金属音を鳴らし生きてるかのようにイリアの腕ごと振り回し暴れる。地面と周囲の死体を払い除け次第にイリアの周りに何もなくなると止まり、イリアが口から息を蒸気のように漏らし肩を揺らす。



「半分以上って……じゃイリアは」



「えぇもうあの女は人間じゃないわ。武器に体を食われた文字通りの部品にされてる、でも不思議、あそこまでいったなら武器に脳まで取り込まれて理性なんて無いはずなのに」



獲物を狙う大型猛獣のように四足になり構えが人間離れしていく。手の指を地面に食い込ませ力を溜めていく。足の爪先も地面に突き刺しまさに獣になっていく姿はテツを驚かせる。



「魔剣レイヴン。使用者に膨大な腕力を与える対価として精神状態まで侵食し、契約した者を狂戦士に変え体が朽ち果てるまで戦い続ける剣よ」



「知ってたのかよ!!」



「当然でしょ。私はあらゆる武器を生み出すんだから知識もあるわよ……それより、あの女どうするのよ、あー見えて随分とお前の動きを盗んだわよ」



指や爪先を食い込ませていた地面が爆発するように砂を上げて跳ね上がるとイリアの姿は消えている。そう認識した時にはテツの鼻の頭に魔剣が触れていた――速過ぎる。見れる速さではないと思いテツの全神経は足だけに集中していく。



「動け!!」



足に言い聞かせ回す。動かし方は単純。ただ足首を捻り体全体を回すだけ、魔剣が鼻を叩き切り頭蓋骨を粉砕するまでの時間は一秒すらない。最初は爪先を勢いよく回し、次は足首だったがそんな時間はない。体を回す前に最優先で頭を捻り魔剣を避けていく。


鼻先から血を噴出し中身の骨が見えるまで切り裂かれる頃にテツは回転し魔剣を避けて見せる。地面から豪音が響き割れてしまう光景に鳥肌が立つが反撃の拳が唸る。


遠心力を残しままの横からのフックを骨が弱い肋骨に叩き込めば必ず粉砕する自信があり、持てる全ての力を拳の乗せ勝負に出る。



「その動きは見飽きたぞテツ!!」



テツの拳の軌道は横から巻き込むように襲いかかったが、イリアは魔剣が外れた時点で片手で拳を作り縦の軌道で叩き込んでいく。横と縦……どちらが先に到着するのかは当然の結果が出ていく。



「あぁ――…ぐぅ」



皮肉にも狙った肋骨を粉砕されたのはテツ自身だった。イリアの拳は脇腹に入る。パンチの打ち方も滅茶苦茶だが縦の軌道で先手を奪い、なにより怪力でテツに致命的なダメージを与え吹き飛ばす。



「テツ!!」



吹き飛ばされた先は先程まで守るはずだった城内。アイリが駆け寄るとテツの脇腹から肋骨が突き出ている光景に思考が止まる。



「逃げろ!! ルーファスを連れて逃げろアイリ!!」



「くそお前ら行くぞ!!」



アイリが傭兵を引き連れ城内を出ようと駆け出すとテツがアイリの手を掴む。



「よせ!! すぐ呼び戻せ――…っ」



傭兵達が破壊された扉まで踏み込んだ瞬間に人の形を失う。纏めて横に薙ぎ払われ壁に激突し肉の塊から血だけを流す。手足はバラまかれ、武装した人間の体をたった一振りで粉砕したイリアが魔剣を肩に軽々乗せ城門へ侵入してくる。



「おいパンドラ。肋骨をやられた、治せるか」



「少し時間かかるわね。まったく素手で肋骨粉砕するなんてあの女」



自分の脇腹から血まみれの骨がはみ出してる光景を見ると体の体温が下がる気分になる。テツは痛みを堪え膝を立てゆっくりと立ち上がり、後ろで震え上がる騎士に囲まれるルーファスに顔を向ける。



「おい糞野郎、約束してくれ」



「なんですかテツ君」



こんな状況でも余裕たっぷりに片手を靡かせ嫌味な仕草をするルーファスの態度に怒りを通り越し頼もしく思えてくる。



「必ず魔王を殺してくれ。アイリも連れていけ、こいつは戦力になる」



「おいテツ!! なに言ってんだよ」



「悪いなアイリお前に戦い方教えてやれそうにない。ほらささっと行け!!」



アイリの背中を勢いよく叩きルーファスに目で合図すると答える。騎士を率いて下がりだす、脇腹から激痛を走り動くだけで悲鳴を上げそうなテツは人生で最後になるかもしれない強がりを言う。



「ほら来いよイリア!! ハンクを殺した張本人がここにいるぞ!!」



イリアの後ろから魔王軍が次々に侵入してくるといよいよ覚悟を決める時がきたらしいとテツは前に出る。数え切れない命を奪ってきた者の相応しい光景だった。


去っていく仲間。前には絶望的な敵……本当に救いのないどうしようもに人生だった。救いなんて求めてもなかったが、復讐できない事が心残りだと思いテツは進む。



「ハァハァ、くそったれが」



呼吸するたびに傷は痛み視界が揺れ、折れそうな膝は歩くたびに崩れてしまうそうになる。テツは抗う。最後の最後まで抗う、それがテツの最後に出来る意地っぱりだった。

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