三
鋭い――同じ木刀なのに鍛冶職人が研いだような業物のように鋭さが確かに宿っていた、ギリギリ避けるが避けるたびに自分の顔半分が削ぎ落とされたような幻覚が見えテツは油汗を全身の毛穴から出す。
防戦一方では勝てるはずもなく勇気を振り絞り前に出る、当然相手も反撃の一振りをしてくるが、この一週間嫌といほど受けてきたおかげでいい加減目が慣れ受け止める事に成功した、テツ自身も初めてで喜びで飛び跳ねそうになるが今はそんな場合ではない。
体格では勝ってる分力で押していく、体をぶつけるように肩からぶちかますと……目の前からニノは消えていた、正確には体を沈め手首を返し木刀を引き力を溜めてテツの胴を斬って落とす。
「おぉぐぅううううう!!」
どこかの時代劇で剣豪同士が斬り合い最後に見せるように腹を斬られた光景をテツは思い出す、残念な事にテツは斬られる方で腹を抑え悶絶しながら地面に沈んだ、倒れるテツにニノはしゃがみこみ木刀で顔をつつく。
「テツは回避が上手い、しかし攻撃になると酷いなぁ~」
「おぉぐぅ……うるせぇ~お前は両方上手すぎなんだよ!!」
ニノの剣術だけ他の奴らとは違う、他はこの世界の伝統の形だがニノだけが違いいくらテツが剣術の素人でもわかる、ニノの剣術は日本武道……それも実戦派に改良されたおぞましい殺人剣、一週間戦ってみてよくわかった、人を殺すためだけに特化した技術。
この世界の技術ではない事になると結論は一つしかない。
「ニノお前も元は日本からきたんだな」
「いや違うぞ」
「その黒髪と瞳で何を言うか!! しかも相当の剣術で有名どころだろう、いや待てよ」
これだけの使い手が現代にいるだろうか? そもそも現代の剣術ではない、こんな恐ろしい剣術教える道場なんて聞いた事もない……ならば過去? それも戦国時代級に戦乱の時代からニノはこの世界にきた事を考えるとテツは不思議と納得してしまう。
と考えていると毎日見てるが慣れない笑顔が視界にくる、その笑顔は美しく男なら誰だって目を奪われるだろう、本当に嬉しそうで高揚感に満ちた笑顔でマリアは笑っていた。
「あらぁ~毎日ご苦労さん~テツ君貴方が天才を越える大天才だったらたった一週間で私にぃ~」
「うるせぇババア!! 知ってるんだぞ27歳で結婚出来なくて『私に合う男性がいないだけよ』と愚痴ってた事を!! 馬鹿じゃねぇの――おぶぅ!!」
真上から腹に垂直に木刀を落としテツを黙らさせた後に言葉すら出ないテツの頬を軽く撫でながら笑顔を近付けて無言、何も言わず目だけで威嚇し高笑いと共に去っていく、悔しいが今のテツじゃなにをどうしようとも勝てない、結局は努力するしかなく気合いで立ち上がり再びニノに挑む。
「あがぁああああああ!!」
武器は魔法で……機械で動いているため魔法を使いすぎるとオーバーヒートし壊れてしまう、魔法の力は強力でそもそもオーバーヒートする頃には武器自体の耐久力がもたなく壊れてしまう、今現在の技術ではこれが限界のために相性がいい武器を選ぶように。
そして科学ではなく本物の魔法を宿した武器がありその武器を扱うには武器そのものと契約をする必要がある、これは自分が選ぶのではなく武器が人間側を選ぶとい特殊な現象のために願わくば諸君の中から【契約者】が現れると先生は嬉しいな。
「痛い、お腹が痛い」
午後の授業で痛みと戦いテツは内容を聞く、授業内容はテツの心を躍らせ聞いててまったくあきない、特殊な武器に契約者……テツにとっては夢が広がる話でワクワクしながら聞いていると、いつもの銀髪が揺れる、さすがに回数は減ってきたが授業中に一回は必ず振り向いてくる。
最初は無視しつづけたがやはり気になり小声で悪戯じみた事をしてみる。
「フェル」
「……っ!!」
名前を呼ばれ肩が飛び跳ねるかのようにビクッと震えるとゆっくり振り向いてきて目が合うと高速で振り返る、新しい遊びをみつけ暇つぶしになるかと思っていると。
「これから諸君に武器を選んでもらう」
「え」
いつのまに授業は進み他の生徒は教室を出ていく、テツも走るように教室を出ていきとうとう武器選びかと思うと自然と走る速さが早くなっていく。