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傭兵時代ですっかり手馴れた乗馬で風を切るように走り旧ベルカが見下ろせる丘まで辿り着くとテツは息を飲む。ルーファスが守りを固めている場所は旧ベルカ城と見れば理解してしまう。旧ベルカ城の周辺には蟻が群がるように大量の魔王軍と雇われた傭兵達が囲んでいた。



「今からあそこに行くのかよ……はぁ」



旧ベルカ城は多少は崩れているが形はそのまま残り篭城するには十分な機能を果たしていた。問題は魔王軍の数。城を丸々囲んでしまいそうな勢いで押し寄せ次々に集まっていく。



「魔王軍もまだ来たばかりか、ならばこっちも急いで」



「なぁテツささっと行こうぜ!! あんな連中お前とあたいが入れば片付くぜ」



人の何倍もあろう城門が魔王軍の侵攻を阻止しているが、堂々と現れた人物にテツのトラウマが蘇ってくる。天を貫くような巨大な魔剣を振り上げ城門に叩きつけ始めた女――イリア。



「本当に運がない。ハンクに続いてあんな奴と出会うとはな」



「なぁテツってばよ!!」



馬乗りに乗られ顔面を変形されるまで殴られた記憶に肩を震わせるが頬を叩き気合を入れ記憶を探る。まずは魔王軍を気付かれず城内へ進入が難しい。記憶を探り何かないかと考えるていると一つだけ思い出す。



「おいテツ!!」



「うるせぇアイリ!! てめぇ少しは頭使え!! あんな数を真正面から戦ったら負けるに決まってんだよ!! お前の悪い癖は自分を強いと思い込んでる事だ、わかったか!!」



捲し立てアイリを黙らせ、まだ学園に通ってた時代を思い出し頭の中に地図を作り上げていく。正確ではないが無策で突撃するより勝機はある。



「道案内は俺がする。正直賭けに近いが信じてついてきてくれ」



傭兵達が頷くと勢いよく丘を駆け、正面ではなく焼き払われた森の跡地を疾走していく。地面は黒く焦げ草木は焼かれ森の面影が完全に消える僻地を馬を走らせる。


既にナイトメアを武装しウィル特性の真紅の鎧を纏い奇襲に備える。アイリは体格に合わせ重鎧を装着し腕には怪力の源になる小手を装備し、先人は契約者二人が走る。



「よし、まだあったか!!」



そこは城壁の一角。かつてテツの初陣……エリオと一緒に守ったが結果は散々といい思い出ではない。涙と涎と小便を漏らした経験の場所だが、その記憶のおかげで目の前の扉に辿り着く。急いで開こうと馬を下りる。


ここも何時までも魔王軍がこないとも限らない。城門を叩く音が大きくなり空を見上げれば矢が雨のように飛び交っていく。ドアノブに手をかけたが当然のように硬く閉ざされていた。



「クソ!! どうする、最悪ぶち破るか。しかし守りが」



「どいてろテツ。あたいがこんな薄っぺら扉なんざ」



「だぁああ!! 待て待て!!」



おそらくここしか進入する場所はないだろう。他の目立つ箇所は魔王軍が見逃すはずがない。破壊してしまえば魔王軍への進入の好機を与えてしまう……悩んでる時間さえ惜しい状況でテツが頭を抱えていると扉の向こうから声が響く。



「誰だ!!」



「助かった!! テツだ――…て言ってもわかるわけねぇか。とにかく開けてくれ!! ルーファスを救いにきたんだ」



「こんな状況で信用できると思うか? お前が魔王軍でない証拠はあるか」



痛い所を突かれテツが押し黙る。



「信用してくれ!! そーだ!! ルドルフの奴から頼まれてきたんだ」



「ルドルフ……あの早々に逃げた奴か!! 尚更信用なんて出来るか!!」



最悪。まさにその言葉が頭に浮かぶ。どうやらルドルフの印象は悪く、扉の向こうの兵士の声に怒りの色が出てくる。テツが言葉に詰まっているとアイリが前へでる。



「兵士さんよ。こいつは願いじゃない、要求だ。こちらはこんな小さな扉簡単に破れる力があるんだぜ。こっちが味方だって可能性に賭けて開けるか、黙ってぶち壊されるか選べ」



いつも勢いだけで喋るアイリの声が温度を下げたように冷たくなる。まるで扉の向こうの兵士の喉下に切っ先を突きつけるような迫力があり、兵士が言葉を失う事数秒扉が開けられていく。


体を投げ出すように扉を潜ると何人もの兵士が武器を構え待っていた。テツは両手を上げて敵意がない事を示すが警戒は解けない。



「ルーファスに会わせてくれ!!」



「今の状況で会わせると思うか!! まずは武装を解除しろ」



少しの時間さえ惜しい時に何をと舌打ちを鳴らすと背後から声が響く。



「魔王軍だ!! どーするよテツ!! そっちとは話つきそうにないのか!!」



数人の傭兵が扉の向こうに取り残されたまま魔王軍が現れると一人の兵士が扉を固く閉め硬く閉ざす。分厚い板を打ちつけ始めるとテツが腕を掴む。



「やめろ!! 見ただろ、まだ仲間が残っているんだぞ!!」



テツの横暴に兵士達は一斉に武器の切っ先を突きつけ動きを制限すると、さすがに我慢の限界を感じ始めてしまう。閉ざされた扉の向こうから金属音と傭兵達の呻き声が聞こえ、状況がわかってない奴らへと拳を上げた瞬間に先に動く者がいた。



「いい加減にしろぉおおおお!!」



アイリが腕を振り回し何人かのベルカ兵を軽々吹き飛ばすと空気が変わる。本来守る側だったベルカを敵に回す最悪の形になってしまいテツが自分の世渡りの下手さに嘆いていると一人の老人が声を上げる。



「やめなさい」



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