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三人はヘルバニアの街へ繰り出すがいきなり大金を持ち迷う。そもそもこの街で高級料理を出す店など縄張りを持つ組織の幹部やらタチの悪い連中しかいなく必ず揉めるだろう。贅沢に慣れてない三人は右往左往しながら歩き回った結果。



「うへへマスターあの肉料理くれぇ」



長髪の青髪をバンダナで纏め、胸の部分を布一枚で隠しスカートで飾り、その美貌で客を虜にするマスターがいる酒場に落ち着く。客層は相変わらずの悪人顔揃いだがマスターの前では皆が笑顔になる。



「久しぶりじゃないかテツ。最近コロシアムで見ないがどーしたんだい」



肉汁がたっぷりかけられた分厚い肉を皿に載せ運んでくるとニノとアイリが涎を垂らす。テーブルに運ばれるとニノとアイリはかぶりつき豪快な食べっぷりにマスターは溜息をつく。



「テツあんたの知り合いはどいつも変人……あ!!」



肉に食らいつき引き千切る姿を見て思い出したかのように声を上げるとニノの手を掴む。



「あんたニノだね!! 黒髪のニノ!!」



「ん? あぁ、確かにニノだぞ」



「あんたの大ファンなんだよ!! テツちょっと借りるよ」



ニノの手をとりテーブルを囲んで自慢話やコロシアムの話題で盛り上がる連中の前に連れていくと大盛り上がりでニノが質問攻めされている。テツはテーブルに肘をつきながら見守っていると横でアイリが不機嫌そうに肉を噛みモニュモニュと鳴らし頬を膨らます。



「ケッなんだよ。ちょっと可愛いからってあの扱い」



「ちょっとどころじゃないだろニノは。とんでもない美人に成長するだろうなぁ」



「あ!! お前ニノの事好きなんだな!! そーだろ!!」



まるで恋話で盛り上がる中学生の如くアイリが興奮するとテツが冷静に答えていく。



「あのな仮に俺が好きだったとしても恋は叶うと思うか? あの美貌だ、寄って来る男はこれから数えきれないだろうな」



「……お前変なとこで現実的だな。魔王を殺すなんて言いながら」



「俺にとっては恋愛は夢も浪漫もない現実的な現象だっただけだ。好きな子に顔が嫌いだからってフラれる気持ちわかるか?」



悪人が集まる酒場で目的のために大量殺人をしている男が恋話、それも自分がモテた事のない理由を語られアイリは笑えてきた。あの化け物じみた強さとのギャップが面白い。



「アイリお前こそ男はいらないのか? 顔だけは美人なんだから……マニアックな奴でも探せば」



「マニアックってなんだ!! あたいはこの腕っぷりで有名になって自分で男を捕まえてみせる!!」



「なんと男前な事で。しっかしニノ人気凄いなぁ」



離れた席からニノを見守ると男に囲まれ、褒められたのか少し照れた顔を見せるニノがやたら魅力的だった。普通の男であればニノを見れば嫌でも意識してしまう。テツもその一人でこれまで何回も胸を締め付けられる思いをしてきた。


その度に自分を戒めるように過去を思い出す。恋愛していい事なんて何一つなかった。最後にはいつも泣いていた記憶……それにもう人を愛する資格すらないだろうとニノを見つめていく。



「しかしテツ。もし魔王を倒して英雄になれば女なんていくらでもくるぞ」



「――…確かに。それこそ百人どころじゃないなウハハハハ!!」



「欲望に正直だな。まぁあたい達傭兵は欲望こそ生きる理由だしな。しかし同じ女としてニノには嫉妬してしまうね」



飲んでいた酒を吹き出すほどにテツは笑う。まさか分厚い筋肉を武装した女から嫉妬という言葉が出ててくるとは思わなかった。



「ハハハハ!! 何を言い出すかねこの筋肉は~その体だから女を捨てたと思ってたわ」



「ああああたいだってね!! まさかこんな体になると思わなかったんだよ!! 確かに強くなって嬉しいが……その、やっぱり女の部分は心のどこかにあるんだよ」



顔だけ見たらベリーショートの髪を揺らし照れる美人はとても魅力的だった。ただ首から下の筋肉がそれを邪魔するようにクネクネするとテツは不思議な気分になる。強さを求め強さを手に入れた代償が女を捨て去る事。



「女心ってやつは面倒だな。いいじゃねぇかぁ~今の強さは常人には一生かかっても手に入らないんだぜ~女心なんざその自慢の腕っぷりで吹き飛ばせ」



「はぁ~あんたがモテない理由がわかるね。そんな事だから言い寄ってくる女一人もいないんだよ」



「うううるせぇな!! お前こそせっかくの美人を筋肉で台無しにしてる事を何時までも気にすんな!!」



酒が入っていたせいかテツとアイリは互いに指を指しあいながら口喧嘩する。他愛もない恋愛話やら、どちらが最初に恋人に作るかと思春期のような話題で盛り上がっていく。そしてアルコールの回った体がいつの間にか眠りにつく。



「おい起きろテツ」



頬を勢いよく捻られ痛みで起きるとアルコール臭い匂いと変わらない客達の話声が聞こえてくる。隣では大欠伸をかきながら背伸びするアイリにニコニコとニノに笑いかけるマスター。



「起こしてくれたのかニノ~あぁマスターいくらだ」



ポケットから金を出そうとした時にマスターが満面の笑みで腕を組む。



「今日は奢りだよテツ。ニノちゃん連れてきてくれたからね」



「マジか!! でかしたぞニノ!!」



「フハハハ感謝しろよ!! この人気に!!」



三人は出費無しで酒場を出られた事に気分よくし足取り軽く出て行く。アイリだけニノの人気が気に入らないのか唇を尖らせているがテツは気にせず空を見上げる。



「さぁ~て明日から魔王の野郎を殺すための戦い再開だなニノ」



「うむ。もう迷いは消えた。呪われた血筋を断つために父上を討つぞ」



「父上……お前、魔王の娘なのか!!」



今更気付いたアイリが驚きテツが今までの経験を話しながらコロシアムに帰っていく。 

 

 

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