四
肩甲。肘当て。ガントレッド。胸当てが全てが分厚い……丸みを帯びた重武装の蒼鎧でテツ達の前に立つ。ハンクの体格に合わせ作られた鎧は鋼鉄の塊でまともな攻撃など弾き返す。戦斧を肩に担ぎながら鎧と同じ分厚い顔を歪ませ笑う。
「魔王がお前が逃げ出したと聞いて必ずここにくると言ってな。楽しみに待っていたんだぞ、しかしニノも一緒とは運がいい」
テツの装備はボロボロの服と腰に切断を目的した水系の魔法がある剣。水はハンクの前で使えない。回りは水だけしかなく状況の悪さに舌打ちを鳴らす。
「久々だなハンク。お前も変わった奴だな~こんなおっさんに何時までも付きまとうなんてな」
「そういなテツ。今や魔王軍に逆らう奴もいなく暇を持て余してたんだ、それにお前とは決着を付けたいと思ってたんでな」
ニノはハンクから目を離さず足元から波紋を生み出しながら前に出る。
「相変わらず戦いに狂ってるって顔だなハンク。父上と母上は元気にしてるか」
「あぁ元気すぎて困っている。今もどこかの戦場で暴れている頃だろう」
「そうか」
テツを無視して走り出す。一直線に最速で駆ける。鞘から刀身を抜くと同時に目の前に水の壁が出来るが構わず叩き切る。液体である水が真っ二つの割れた隙間を閃光のように突き抜けハンクに一撃を振るう。
「さすが魔王から授かった武器だな。確か対魔法か?」
「私に戦う術を教えた事を後悔させてやる!!」
ニノの一閃は巨大な戦斧で防がれたが次々に連撃を繰り出す。父魔王の元から離れ数え切れないほどの修羅場で会得した技術をぶつけていく。狙いは上ではなく足元……膝の間接部分の隙間に刃を滑り込ませれば貫ける。
ハンクが巨大な戦斧で攻撃を防いでるほんの一瞬に勝機は出た。戦斧がニノの体を隠した一瞬に動く。柄を逆手に持ち替え下段に突きやすい形に持っていき後は貫くのみ。
「やれやれ教えた身としては嬉しい限りだなニノ。弟子がここまで強くなり牙を向くとは血が沸騰するほどに熱くさせるわ!!」
狙った足は刀より速く跳ね上がりニノの腹部に深く突き刺さり蹴り飛ばす。二人の体格差のせいかニノは空中を泳ぐように飛び再びテツの横に戻る。呼吸が止まり口から泡を吹き出し痙攣させ悶え苦しむニノを見てテツの顔が青白くなっていく。
「奥にあるパンドラが欲しいんだろテツ」
「あぁ、ちょっと取ってくるから待っててくんねぇか」
「悪いなテツ。出来れば武装したお前に勝ちたいが、さすがにあれは駄目だ」
わざわざ敵の戦力を増やす奴はいない。ハンクは戦う楽しみよりも勝利に徹していた。何度も煮え湯を飲まされ敗北の味を刻まれた相手に容赦なく冷静に殺しにかかる。
腰から剣を抜くと構えるが魔法は使えない。使った瞬間に剣を破壊されかねない。いくら素手での技術を上げたとしても相手は百戦錬磨の猛者。魔王から指導も受けたであろう。対策などされて当たり前……諦めはしないが状況は詰みかけていた。
「テツ。俺が言い渡された命令はここの門番だ。このまま引き返して二度と顔を見せないと誓えば見逃してやろう」
「……ハハ。今更何を言い出すんだよハンクよ」
怯えきっていた心にハンクの挑発めいた言葉に炎が宿る。
「俺はお前達に仲間を殺され死ななくてもいい人も死んだ。その無念と執念が俺を動かし今ここに立っているんだ――…いいか俺は魔王を殺すと誓ったんだぞ……ふざけるな!!」
マリア、ライアン、マックス、牢獄での仲間達……ギンジの顔を思い出し前に出る。怯える事すら間違えなんだ。あの暗闇の牢獄で言ったではないか、人生などもう捨てたと。ならば振り向くなど許されないとテツは水の上を滑るように走り出す。
ハンクの回りに無数の水の塊が浮き標準を合わせてくるが止まらない。近づかなければ攻撃以前の問題だと更に加速すると水弾は意外な所から飛び出す。
「ガッ!! ク――ハッ」
正面ではなく足元から突き上げるようにテツの腹をえぐり動きを止めてしまう。体の空気を一瞬全て奪われたような苦しさを覚え足が止まってしまうと次に正面から水弾がくる。
顔、肩、腹とテツは何発も打ち抜かれ膝をついてしまう。目の前に現れたのは水で作られた巨大なハンマー。大きく振り被りテツを狙うが狙われる側は避ける体力もなく無慈悲に一撃は入る。
「残念だなテツ。これが契約者と人間との差だ」
壁まで飛ばされ叩きけられ地面の水を自ら吐き出す血で染め上げていくテツにハンクは言う。契約者であっても武器があってようやく力が発揮出来る。後少し……ほんのわずかの所に相棒がいるテツはその差で死が近づいてきていた。