三
館に入ると床も石で積み上げられた壁も白く清潔感のあるホールだったが、無数にある金属のパイプが壁から天井へと続きせっかくの豪華な内装を台無しにしていた。輝くシャンデリアもパイプが巻きつけられ、大理石で作られた階段には研究者が散らかした資料の紙で埋もれているようだった。
ホールでは既に武器の研究が行われ、炎の渦を巻く剣を見ながら喜びの声を上げている。人が作り出した武器より本物の魔法が封じ込まれている武器に研究者は心を奪われテツとニノなど見向きもしない。
「さてどうするテツ。とりあえず一階から回るか」
「ん? いや……多分だがある場所わかるぞ」
なんとなく。本当になんの確信もない勘のようなものだった。しかし館に入った瞬間から悪魔が手招きするような映像が脳裏に張り付きテツは自然と足が進む。
「しかし警備が薄いな。こんな重要な場所いくらなんでも外の傭兵だけとは魔王なに考えてんだ」
「フハハいいじゃないか!! ささっとあの箱を奪って本来のお前力を取り戻せ」
「まったく本来の俺が悪魔みたいな言い方よせよ。ささっと行くか」
階段を登る時に何人かの研究者とすれ違い目が合うがテツ達の格好を見て鼻を詰まんでささっと離れていく。変装もそうだがいつの間にかテツは薄汚い傭兵が似合うようになったと複雑な気分で進んでいく。
まるで体を鎖で縛られ引っ張られるような感覚を覚える。武器と契約者が惹かれ合っているのか広い館を迷いなく進んでいくと一枚の扉の前に着く。重苦しい鋼鉄の扉の左右に二人の傭兵が欠伸をかきながら立っていた。
「ふぁあああ~……なんだお前達」
「今日から新入りだ。疲れたろ? 交代してやる」
テツが人懐っこい笑顔で近づくと傭兵は警戒するように腰から剣を抜く。
「そんな話聞いてない。お前らの依頼主を教えろ」
外にいた傭兵のように軽い連中じゃないと気付きテツの笑顔が引きつる。隣のニノは舌打ちを鳴らすと静かに腰の鞘に指をかけてる。
「依頼主は魔王だよ。こんな重要な部屋の警備だしな」
「待ってろ確認してくる」
一人の傭兵がテツの隣を通り過ぎた瞬間に手が伸びる。後ろから口を抑えると同時に背中に剣を突き立て背骨を破壊しながら胸まで貫通し音を出さずに殺す。手を離すと傭兵が吐いた血がビッシリと張り付き軽く払う。
後ろにはもう一人の傭兵がいたが見なくてもわかる。ニノが同時に動き既に済ましていると。振り返ると鋼鉄の扉に血が飛び散り呼吸音がおかしくなっている傭兵が倒れまだ息はある。
「相変わらず鮮やかなお手並みだなニノ。喉を一突きってところか」
もう死にそうな人間を見ても心は動かない。テツは怯えも驚きもしない。道端に転がる石を蹴飛ばすように傭兵を蹴ると扉の前に立つ。
喉が焼け付き水を欲している気持ちによく似ていた。砂漠を何日も歩いてオアシスの手前で立っている、後数歩で目当ての物がある……鋼鉄の扉を開けると重々しい金属音を慣らし開いていく。
「ん?」
扉の奥は何もない部屋だった。ただ館に入った時のホール並に広く壁のパイプは奥へと何本も続いている。奥には扉が一枚あり感じる、間違いなくパンドラがあるとわかり喉を鳴らし一歩を踏み出すと今までと違う感触に足元を見る。
深さは足首までだが部屋一面に張られた水。部屋には水以外何もなくただ静かに波紋を広げる不思議な空間にテツとニノが首を傾げる。
「なんだここ」
「ささっといくぞテツ。奥にあんなパイプが続いてるんだ、久々に箱と再会か」
二人が進んでいくと奥の扉が開き一人の男が現れる。その瞬間になぜ警備が薄いのか、なぜこの部屋に水が無意味にあるのか? 全ての疑問が解決したと同時にテツは絶望してしまう。
「む、ようやくきたな待ちわびたぞテツ……さて何度目になるかな。こうして互いに武器を突き合わせるのは。ニノも少し大人びてきたな」
「――ハンク。よりによってお前かよ」




