八
案内された部屋に入ると、壁一面のガラス張りから漏れてくる光の前に一人の男が立っていた。椅子もテーブルもなくただコロシアムを観戦する用に作られたような部屋でスーツ姿の男は背中を見せたまま語る。
「お前の試合は全部ここから見ていたぞテツ」
どこかで聞き覚えのある声とこの時代では珍しいスーツ姿で記憶を探ると一人が思い浮かぶ。白髪の短髪に、スーツの上からでもわかる盛り上がった筋肉と長身……あ、と思い出すと男は振り返った。
「まずはよく生き残ったなテツ、ニノ」
「学園長!!」
「お前!!」
テツとニノが同時に声を出すと学園長は二人を観察し成長を確かめるように笑う。
「学園長今まで何してたんですか!! てかベルカが滅ぼされ学園も破壊されたと聞いたんですが」
「そうだそうだ!! 質問に答えろおっさん」
「テツはともかくニノは相変わらず礼儀を知らないなぁ」
外から二人の戦士が戦う音と観客の盛り上がりに震える声を聞きながら学園長は胡坐をかき質問に答えていく。
「まず俺も魔王との戦いに参加してた。しかし結果ベルカは負けて学園を失い俺は逃げるはめになった……でもな俺はそこで戦う理由ができたんだ、あの糞魔王とな」
太ももを掴んでいた指に力を入れギリギリと爪を食い込ませると戦う理由を口にする。
「魔王に娘を殺されたんだ。俺も今まで数え切れないほど殺しまくってきたから娘を殺されたから怒るなんてと思ったが……そんなの知ったこっちゃねぇあの野郎とは昔手を組んでいたが許せねぇ」
「学園長魔王と知り合いなんですか」
テツの声色が変わる。魔王の友人と言われた男が目の前にいるだけで殺気だってしまう。
「俺の本名はルドルフ。昔魔王と協力してベルカを一回落とした、まぁ全ての元凶に加担したのは否定しない」
テツが一気に飛び出しそうになった時に肩を掴まれ驚きの表情でニノがルドルフに近づいていく。
「母上から聞いた事あるぞ、傭兵の中の王と言われた男と……しかし謎だ。一度ベルカを落としたお前がなぜ魔王の元から去った」
「知ってるか? 世界の頂点に立つと案外暇なんだぜ。敵もいなくなり空っぽの毎日の繰り返しだ、俺がフラフラと旅してる内にルーファスの坊やがベルカを再建したんで面白そうと関わっただけだ」
今にも食らいつきそうなテツを抑えニノは傭兵の頂点に君臨していたルドルフと会話を続ける。
「しかし調子のいい話だな。好き勝手した挙句娘を失ったから復讐とはな、それがなぜ今コロシアムなぞしてる」
「いくら魔王と戦うって言っても数は必要だ。俺は誰よりも早くコロシアムを作り猛者共を集めてんだよ……さてテツ、お前と俺の利害は一致してるんだぞ。お前復讐のために戦ってるらしいじゃないか」
「そうだ。利害の一致とは? 返答しだいじゃここで叩き殺すぞ」
胡坐をかき頭を落とし大きな溜息をしながらルドルフの復讐の理由を出す。
「マリアはな俺の娘だったんだ。俺みたいな糞親父についてきて随分と苦労させた、でも学園で教師してる時は幸せそうだった……ニノの言うとおり都合のいい復讐さ」
ニノの手を振り払うとルドルフに近づきテツは鼻息を荒くし見上げていく。
「つまり互いに獲物は一緒だから協力しろって事かルドルフ」
「あぁ、まぁ素直に従う顔してねぇなテツ。おい」
ルドルフが入り口にいる男に声をかけると一本の木刀を投げ渡され笑う。
「俺の顔を叩きたいって顔だな。まぁ久々の再開だ、こいよテツ。どんだけ成長したか確かめてやる」
「いいんだな。どーなっても知らないぞ」
「ハハッ懐かしいな。学園長室で初めてお前と戦った時を思い出すな」
戦闘態勢になった二人を見てムスッとし腕を組み壁に寄りかかり自分だけ仲間外れにされた事に不満を顔に出す。その反面テツの強さを見てみたいという気持ちはあった。
今までのうっぷんを拳に乗せて傭兵の王にぶつけられる機会にテツは怒りと同時に嬉しさがこみ上げてくる。目は怒りに満ちているが口元は笑うテツを見てルドルフもまた笑う。
「あんたを倒せば魔王にまた近づけそうだなルドルフ」
「通り名のとおり化け物みたいになったなテツ。これでも鍛錬は続けているんだ、簡単にはいかないぞ」