七
観客席から体の半分を乗り出し必死に叫んでるニノを発見すると笑顔が同時に出てしまう。たった数ヶ月しか顔を見てないのに随分と離れてた気がしニノも叫びながら少し泣いてるように見えた。
「テツゥウウウウ!! ささっとそんな奴倒せぇええええええ!!」
先程まで燃え上がるように沸騰していた体はニノとの再開で冷め思考も冷静さをとり戻りオルガに向き直る。
「嫌われ者のわりに随分人気があるじゃないか」
「まぁファンってよりは……悪友かな」
構えを解きまるで散歩のようにテツは歩き出す。待ちに徹していたオルガが初めて顔から余裕が消える。テツの行動は理解できない、どんどんと近づいてくるテツにたいし選択を迫られてしまう。
「さぁ行くぞオルガ」
先手をとるか――しかし合わせられれば何をされるか不明で危険。待って後手に回るか……気付けば無防備にテツは間合いに入る。完全に剣が届く距離に入るがオルガは迷う。しかし距離は時間と共に経過し剣の距離さえ殺されてしまうと気付き剣を抜いてしまう。
「ようやく振ったか!!」
テツが待ってたように剣に向かい手を伸ばす。光速で叩き落とされる剣に伸ばす手は拳ではなく開いていた。観客が誰もが身を乗り出し二人の接触の瞬間に注目すると結果は出ていた。
「グッ!! この」
悔しそうに言葉を出すオルガの剣はテツに僅かに届かず、テツは伸ばした手で剣を防ぐのではなく剣を握る腕を……正確には手首を掴み一気に引きこむ。
「掴んだらこっちのもんだ!!」
引き寄せられてくるオルガの顔面へ拳を叩き込むと同時に連打が始まる。片手で完全に剣を封じてる今こそ好機とボクシングから殺人術に進化した攻撃を重ねていく。
顔面へ叩き込まれたオルガが苦痛で口を開けた瞬間に肘を口内へ突き刺す。前歯は叩き折られ口の中が切り裂かれていく。次に坊主の頭を掴み顔面への膝蹴り、最後は掴んでいた手首を捻り上げ倒すと腕をとる。
「ガッ!! 何をする!!」
必死に剣だけは離さないと力を入れるが、その腕から激痛が走る。骨が悲鳴を上げているのがわかり暴れ回るが技はどんどん食い込んでいく。
「腕十字って言う技だ!! これも研究してこい!!」
観客から悲鳴が上がる。オルガの腕がありえない方向に曲がり不気味な光景になっていく。ミシミシと骨が断末魔を上げると事数秒後にはオルガが赤子のように泣き喚く。
「はぁはぁ……俺の勝ちだ」
腕一本を完全に破壊したテツが立ち上がると転げ回るオルガに近づいていく。
「うがぁああああああ!!」
「おっと」
逆方向に曲がっても剣は離さなくまともな腕に持ち替え反撃してくるオルガにテツは拍手を送る。それは挑発のように見えるがテツにとっては敬意を表していた。
「あんたすげぇな。滅茶苦茶痛いだろ?」
「黙れ!! さぁ続きだこいよ」
戦意喪失どころか燃え上がっていくオルガを見てテツは鬼になる。
「いいぞ。全力で行く!!」
利き腕を失った時点で勝負はついてたがオルガは弱弱しく剣を振っていく。一振りするごとに体は振り回されバランスさえ取れないオルガにテツは容赦なく拳を叩き込む。額が倍に膨れ上がるほど殴り、肋骨がバラバラになるほど膝蹴りを突き刺し……最後は打撃の雨の中オルガ気絶し静かに試合は幕を閉じた。
「この糞野郎がぁああああ!!」
テツの勝利に我慢できなくなった観客がゴミを投げ込むのを合図にいつもの野次の嵐が起こる。いつもなら挑発するテツだがすぐさま駆け出し入場口を潜り走り抜ける。
「ハァ――ハァ!!」
通路を走り続けていると逆方向から影が現れ同じく全力疾走。二つの影は同時に声を重ねた。
「ニノォオオオオ!!」
「テツゥウウウウ!!」
二人は勢いを殺さず全力のまま抱き合おうとした結果、正面衝突し吹き飛ぶ。そんな間抜けな再開に顔を合わせた瞬間に大笑いしながら抱き合う。
「ハハハ生きてやがったなこの野郎!!」
「ふむ、お前こそ!! 嬉しいぞ!!」
背中を叩きながら再開を喜び合っていると、いつも控え室にくるオーナーらしき男がくる。後ろに手を組みながら二人を見下ろし用件を言う。
「合格だテツ。新人のニノも、ある方が呼んでいる」




