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――ヘルバニア。魔王が支配を広め最初にコロシアムを作り多くの戦士達が集まり今では最強を決める場所となり傭兵達の語り草になっている。街にいるのは腕自慢の人殺しか娼婦、詐欺師、およそまともな人間はいなく力で這い上がる街でテツは息をしていた。


空腹を鳴らす腹の音を抱えながら小走りしていると肩をぶつてしまう。謝ろうと振り返ると小太りだが装飾品を輝かせ中年が鼻息を荒くし睨んで取り巻きの屈強の男達が近づいてくる。



「裸になって地面の這いつくばれ」



それが中年の第一声で男二人がテツの両側に立って無言で威圧してくる。腕を組みニヤニヤと自分達が優位と思い込み武器すら抜かない。おそらくどこかの組織の幹部だろうがテツは笑ってしまう。


その笑みが中年の怒りに火をつけたのか男の一人が腰の短剣に手をかけた瞬間にテツの手が伸びる。股間に手を伸ばし男ならある物を握り……全力で握り潰す。



「よぅあんたどこかのお偉いさんか?」



テツが聞くと同時にもう一人の男が背後から剣を振り抜いてくるが、後ろに目でもあるかのようにテツはなんなく避け子拳を叩き込む。狙ったのは口の中。歯を砕きながら喉まで到達すると内側から頬を掴み、体ごと投げ飛ばし地面に叩きつけてしまう。



「こんな街だ。利権争いや縄張り争いもありそうだよな~なぁ?」



先程まで強気だった中年の顔は真っ青に色を変え油汗が吹き出す。テツが肩に手をかけるとビクッと飛び跳ね、怯える小動物に変わっていく。



「これから飯食べにいくんだ。金くれよ。あんたから売ってきた喧嘩だ、まさか断らないよな」



中年が懐から金を出そうとしないとテツは躊躇なく鼻先を殴り悶絶させ無理矢理奪う。中々の量の金貨を奪うと手の平で軽く投げながら上機嫌になる。



「さてと」



何事も無かったように歩き出し目当ての店までくると、店の前で一人の女性が腕を組み溜息を漏らしている。髪は青く健康的なショートの印象で美人。額にバンダナを巻き露出の多い服を好み、上は胸の部分以外は全て出しスカートを揺らし通行人の目を独占していた。



「よマスター。今日もあんたの料理食べにきたぞ」



「見てたよ……まったくあんたは~まぁいいや入りな」



店内に入ると酒を酌み交わし笑う声が響いてくる。治安にしては店内の客は楽しく飲み、強面揃いだが根はいい奴らばかりな酒場をテツは気に入っている。案内されてカウンター席に座るとあらかじめ用意してように肉料理が運ばれ食らいつく。



「ここは酒を飲む所なんだけどねぇ~まぁ毎回料理を出す私も私だけど」



「んな事言うなよ~客にも人気あんだろ? 実際癖になる味で中毒になるしな」



フォークをクイクイと揺らしながらマスターに上機嫌で話しかけると、何度目かの溜息を漏らしながらマスター心配そうな顔になる。



「あんたね。少しは相手見て喧嘩しないさよ。さっきの男が組織の幹部だったらどーするんだい?」



「ここは世界最強を決めるヘルバニアだろ? たった一人の力でどこまで昇れるか試す場所……それにこんな街でしかいばれない組織なんぞ怖くもなんともねぇな」



眉間に指を当て頭を振るマスターは溜息よりも笑いが出てきてしまう。こんな馬鹿は生まれて初めてだと思い酒を勢いよくカウンターに置く。



「あんたみたいな馬鹿初めてだよ。普通は長い物に巻かれるんだが、まるで駆け出しの若造みたいに怖い物しらずだねまったく。こいつは奢りだ」



「気前がいいねマスター!! そんな美人なのに寄ってくる男はろくでなしばかり!! まぁ仕方ないか、ここの男にまともなのいねぇしなガハハハハ」



その通りだよとマスターも酒を注ぎ一気に飲み干す。



「あたしだってこの歳で独り身は辛いんだよまったく。こんな場所に酒場なんて開いたのが運のつきだったかね」



「おぉ酔ってきたなマスター!! 年増の愚痴を聞きながら飲む酒もまたいいもんだウハハハ」



テツの気を使わずづけづけと言ってくる物言いはマスターは気に入っていた。確かに寄ってくる男はいるが、自慢話や妙にキザったらしく花で飾ってきてしまう。



「あんたいい性格してるよ。しかも腕っぷしも強いしね~それで顔さえよければ完璧だったんだけどね」



「ううううるせぇ!! あぁそーですよ!! 子供の頃から女には無縁ですよ!!」



「アハハハ何本気で怒ってるんだよあんた~……っと注文か」



テーブルまで酒を運ぶマスターを見ながら店内を見渡しながら酒を飲む。確かにここにいる奴らは最低のクズだが、仕方ない。それしか生きる術がないんだから、真っ当に生きて毎日真面目に働いてる奴らからしたら唾を吐くような連中だ。


だがテツはこの酒場の空気が好きだ。人殺しを生業にした連中が子供の頃に戻ったように笑い、騒ぎ、たまに泣く。人を殺す事を繰り返すと感情が薄れ表情が無くなっていくが、ここは違う。



「なにすんだい!!」



客の誰かがマスターの尻を触ったらしく笑っていると、腰から手斧を抜きテーブルに勢いよく叩き付け黙らせる。あらくれ物が集う酒場だけあってマスターも使い手だと思いテツは拍手すると、やれやれと愚痴を溢しながら戻ってくる。



「ハァ~~~本気で寂しくなってきたわ。女一人でこんなとこで何してんだろ」



「いいじゃねぇか~男前すぎるぜマスター!!」



「まったく……あ、そーだ」



急に顔色を変え無邪気な顔でテツに顔を近づけていく。



「最近あんたと同じでコロシアム荒らしまくっている奴がいるらしいよ」



「マスターも好きだねぇ~唯一の趣味がコロシアム観戦って女としてどーかと思うぜ」



「うるさいよ!! それがね、そいつは連戦連勝の女だって言うんだよ、苦戦もした事もないらしくここに来てるんじゃないかって噂になってるんだよ」



コロシアムの戦いの熱気と戦士の美しい戦いにマスターは魅了されヘルバニアに店を構えたとは人には言いたくはない。目を輝かせテツに雄弁に語っていく。



「格好いいよねぇ!! 同じ女として憧れるねぇ~屈強な男共を美しく舞いながら倒すらしいんだよ」



「へぇそいつとは是非お手合わせしたいもんだな」



「あんたは駄目だね!! あんな外道な戦い方女の子にしたら引っぱたくよ」



腹も膨れたし勘定をカウンターの前に置き店を出ようとした瞬間にある一言で足が止まってしまう。



「特徴は……なんでも黒い髪らしいよ。珍しいよね」



頭の中で一人の生意気な少女が浮かび「まさかな」と振り払うようにテツは酒場を出ていく。 


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