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コロシアムを渡り歩くにつれ舞台はどんどん大きくなり、薄汚い傭兵崩れや腕自慢が殺し合う場とは思えないほど舞台は輝き各国の王族達が観戦するまでに上り詰めていく。


円状に作られたコロシアムの天井は抜き抜けで石段の舞台は太陽の光に照らされ神聖な空気すら感じる。ゾディアンですら一目見た時から緊張し震えた。



「ニノぉ~お前みたいな馬鹿で強い奴初めてだぜ」



観客席からまるで神にでも祈るかのように手を合わせゾディアンは呟く。各地のコロシアムで荒稼ぎする内にニノの名前は有名になり観客も注目をしていた。


ニノは茶色の古ぼけた軽装の鎧で機動性重視と刀一本だけと珍しい装備で舞台に立つ。装備は貧相だが美貌で観客達の目を奪い、立っているだけで絵になっている。



「相手は誰だ!! え~と」



ゾディアンが必死に相手の情報を整理していると歓声と共に大男が出てくる。



「あいつは……」



神に祈るように合わせていた両手が解かれ垂れてしまうほどの相手だった。名はバルクホルム。装備は巨大な戦斧一本だけと攻撃と機動性重視。防御面は弱いが圧倒的なリーチで相手に何もさせないスタイル。


ゾディアンが絶望したのは戦績。負ければ死だから無敗は当たり前だが、問題は勝ち星……七十という勝ち星。その数だけでバルホルムの強さがわかる。声が枯れんばかりにニノに叫んでしまう。



「ニノぉおおおおお!! 間合いに入るなよ!!」



ゾディアンの声が届くと背中ごしに軽く手を上げ答える。軽く深呼吸し息を整え体の力を抜きニノは対戦者のバルクホルムの前に立つ。



「あんたがニノか。噂ほど大きくないんだな」



「どんな噂だ」



「二メートルを越える巨体で大剣を操り残虐な……てイメージと全然違うな」



上半身裸で下は革のズボン。ただ肩には身の丈以上の戦斧が担がれニノを見下ろす。



「まぁ噂はなんてそんなもんだ。お前強そうだな」



「自分が強いとか考えた事はないが、回りがそう言うならそうなのかねぇ」



虚勢を張るわけでもなく、威圧するわけでもなく淡々と語るバルクホルムに強者の匂いを感じ取りニノは笑う。



「お前みたいな奴たまにいるな。戦うのが大好きだが、どこか違う……殺しが好きな奴って言うのかね、人としてどうしもうなく狂っている」



「ハハハ!! さすがベテランだな。私から見たらお前もそう見えるが――ッ!!」



ニノが笑った瞬間に戦斧が振り下ろされ石段で作られた舞台に巨大な穴が空く。舌打ちを鳴らすバルクホルムを残しニノは大きく下がり鞘から抜く。



「今の不意打ちには自信があったんだが、意外に素早いんだな」



「ベテランだからどんな戦い方するかと思えばセコイ奴だな」



目を細めジ~とニノが見るとバルクホルムは腰に手を当て笑いながら話す。



「戦いに汚いも綺麗もないだろ? こいつは競技じゃねぇ、純粋な殺し合いだ」



「先程まで大らかな男だったが、いきなり野獣みたいになったな」



腰を落とし捻り、上半身も捻るとニノに背中を向けると異様な構えをとる。ニノが眉を吊り上げ不思議な顔をするとジワリと近づいてくる。少しづつだが確実に。



「間合いに入った瞬間に今溜めてる力を解き放ち自慢のこいつを振り回すぞ。わかりやすいだろ」



背中を向けたまま語りかけながら迫ってくるバルクホルムにニノも構える。戦い方からして魔法を使う風には思えない。単純な腕力と経験で叩き伏せてくると思い一人の男を思い出す……ハンクという男。



「あぁ実にわかやすいな。では勝負は一瞬だな」



顔は見えないが勝負の緊張を楽しむように笑うバルクホムルの笑みが背中が透けて見える気がした。互いに狂ってるからわかる気持ち、父を倒し平和を取り戻すと大義名分を掲げているが本質は戦いたいだけ。


自分が積み重ねた技術を全て使い戦い勝つ。その快楽を一度でも味わうとニノは虜にされてしまった。バルクホルムが近づいてくると両腕が震え始めてしまう。


恐怖ではなく嬉しく鳥肌が立つ。久々に自分の全てをぶつけられる相手と出会い細胞が喜んでるようだった。



「――」

「……」



二人は無言のまま距離を詰めていく。空気が心臓を潰すように重く息が苦しくなり、一度大きく息を吐いた瞬間にバルクホルムの上半身が回転しだす。溜めに溜めた力を解放すると腰から上が消えたように回転し一撃を放つ。



「らぁああああらぁああああい」



石段は削りとられ石の破片が飛び散り大きな傷跡を残す。一撃では止まらず次々に戦斧が振り回されていく。暴風のように近づく物全てを叩き、切り裂き、破壊していく。怒涛の声を上げながら腕を振るいバルクホムルの猛攻が続くと観客が声を上げていくと。



「ハンクに感謝だな。あいつ以上の戦斧使いはまだ出てこないか」



振るう腕がいつもより重く感じ息が切れるのが速過ぎる。戦斧の竜巻を起こしながらバルクホルムは異変に気付き、やがては竜巻を止めてしまう……意思とは反し体が止めてしまう。


振り向くと鞘に刀を納めるニノが見え再び戦斧を振り上げようとすると力が入らない。重さに腕が耐え切れず落としてしまうとバルクホルムはようやく異変の元に気付く。



「ヘヘ……まさか最後の相手がお前みたいな女の子とはな」



いつ攻撃されたのさえ気付かなかった。ただ戦斧を振り回してただけだが近づかれた事もわからずにいた。バルクホルムの胸から血が吹き出し背中まで貫かれていた。


膝をつき前のめりに倒れ沈んでいく。視界はぼやけ少しづつ暗くなる中で人生最後に見た光景は無表情の美少女、汗一つかいてないニノに手を伸ばしながらバルクホルムは命の炎を消されていく。



「お、少しかすったな」



腕にかすった痕跡の傷がある。深くはなく傷口を舐めているとコロシアムの空気がおかしな事に気付く。観客達は目の前で起こった事についていけず呆然としてる。誰もがベテランのバルクホルムが勝つと思っていたが結果は逆……挑戦者のニノが一瞬で勝つ。


ニノは拳だけ上げ去っていくと数秒遅れて観客達が騒ぎ出す。入場口を戻っていくとゾディアンが息を切らせて走ってくる。何度か見た光景だとニノが笑うと、勢いまかせに抱きついてきた。



「ニノぉおおおお!! お前って奴はぁああああ!!」



「うわぁ!! こら離れろ」



「今の試合でとんでもなく稼げたぞ!! 誰もお前に賭けてなかったから倍率が凄いぞハハハハハ」



興奮を抑えきれないゾディアンを引き剥がすと観客席に向かいようやく落ち着ける。命を賭けた戦いの緊張と震えは少しづつ和らぐが隣のゾディアンは未だ鼻息が荒い。



「お、次の試合だぞニノ見ていくか」



「そうだな他に強い奴もいるんだろ?」



「次は……通り名が【化け物】だってよ~大層な名前だがどんな奴だろうな」



【化け物】が登場するとローブで全身を隠し顔も見えない。黒いローブをユラユラと揺らし武器も持たずに中央まで歩く。



その男には希望も奇跡もなく。

関わった人間は死んでいき。

背中には絶望が張り付いているようだった。


ただ執念だけで動いて戦う――まるで亡霊のように【化け物】は現れる。




「おいニノどうした? そんな乗り出すと危ないぞ」



【化け物】の背中を見た瞬間にニノは身を乗り出し叫ぶ。顔なんて見なくてもわかってしまう。



「テツ!!」 

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