四
「こりゃ驚いた」
ゾディアンはテーブルの上に大量の金貨を袋から出し口元が緩む。回りは戦いの熱に当てられた観客達が一人の少女に魅了され声を上げていた。
ゾディアンが驚いたのは金貨の枚数ではなく、見下ろす形になっている観客席から見るニノだった。今までの薄暗く汚い戦いの場でなくコロシアムの舞台に立って戦うニノの強さに驚く。
「最初はすぐ殺されるだろと思っていたが……あいつ何者だ」
ニノの装備は革のシャツとズボンと刀だけ。相手は鎧で固めた重装甲で大剣を振り回しているがニノは踊るかのように避け刀を振るう。装甲が薄い間接部分を斬り払い、相手の反撃は一切受けない。
相手が魔法を使い状況を覆そうとしてもニノの前では消えてしまう。その鮮やかな戦い方に観客は声を上げて喜ぶ。人の殺し合い好きな観客にはニノの戦い方は新鮮で美しく見えた。
「小娘がぁあああああ」
相手が捨て身になり突撃してくるがニノは冷静に合わせ、鎧と兜の間に切っ先を滑り込ませると勝負はつく。
「ふむ、これくらい勝てば稼いだだろう」
溢れんばかりの歓声と口笛を背に舞台から下り出口に向かうとゾディアンが息を切らせ走ってくる。
「ハァハァ――ッ!! 凄いじゃないか!! 今夜は大儲けだぞ」
「おぉそうか!! どうだ私と組んで正解だったろ」
「まったくだ。なんか美味いもんでも食べにいこうぜ」
大金をぶら下げ店にいくと、腰に武器をぶらさげた男達が一斉に睨みをきかせてくるがニノは気にもせず席につく。ゾディアンもいい加減慣れ注文をした。
「お前は強さもそうだが、容姿もいいから人気でるぞ~荒稼ぎの夢が広がるな」
「それは魅力的だが~その、もっと強い奴がいる場所ないのか?」
注文の料理が運ばれてくると肉ばかりの偏った料理にニノはかぶりつき肉汁を飛ばす。
「ここなら格下相手に十分稼げるぞ? わざわざ危険をおかす事ないだろ、おい汁を飛ばすな」
「ファガ……言ったろ、私は魔王を倒すんだと。そのためには強い奴とやるのが一番だ」
「あのなぁ~夢を追うのはいいが少しは現実見ろよ。確実に稼げごうや」
肉の塊を丸々食べ終わるとゲップをしながらゾディアンに指を指しながら言う。
「ふん商売人め。しかし強い奴の所へいけば今の何倍も賭けのレートが上がるはずだぞ」
「そのかわり負けを意味するのは死だぞ。今までのぬるい場所とは違うぞ」
「今までと同じだ。今日だって命乞いする奴以外は容赦なく殺してきたぞ」
追加で同じ肉料理が運ばれてくるとニノは再びかぶりつきゾディアンは頭を悩ませる。せっかく優秀な稼げる駒を手に入れても性格に問題があり、言いくるめられない。
「どうるするゾディアン? 意見が合わないようなら私一人で稼ぐぞ。お前の言う通り容姿がいいらしいからな、目立てば一人でもやっていけるぞ」
「う~……だぁあああ!! わかったよ!! 所詮俺はお前の腕に乗っかっておこぼれを貰ってるケチなチンピラってのがよ~くわかったよ」
「ふははは!! 交渉成立だな。まぁいいじゃないか、仮に私が負けてもお前には痛手はほぼないんだから」
「はぁ~長年こんなケチな商売してるが、お前みたいな豪快で無謀な奴は初めて見たよ」
「気にするな初めては誰にでもある」
勝手に追加注文をするニノに呆れた笑いを浮かべながらゾディアンはニノを見る。短く整った黒髪と愛らしい瞳と高い鼻……呼吸をするように人を殺すとは思えない美しさ。
「なぁお前さ、そんだけ綺麗なんだから金持ってる男とくっついて人並みに幸せになろうとは思えないのか」
勢いよく口に料理を運ぶ手がピタリと止まり目を見開きニノは真っ直ぐゾディアンを見た。
「それのどこが楽しい。人並みの幸せ? これだけ殺しておいて今更夫を作り子供を授かれと? そんな物は人並みの人生を歩んできた女がすればいい」
「俺が言うのもなんだが、女で傭兵家業ってのはきついぞ。女ってだけで死ぬより辛い事される可能性もあるし、何より戦いとなると男の方が圧倒的有利だしな」
「その圧倒的有利をお前の前で破ってきたじゃないか。ゾディアンお前はぐだぐだと理論が多い奴だな。実戦に勝る理論はないぞ」
大きな溜息をつき拳を頬に乗せて再び料理にかぶりつくニノを眺めながら「もうどうにでもなれ」と商売人らしからぬ発言をしゾディアンは笑う。長年ケチな小銭を拾ってきたが、たまに大勝負も悪くないと思っていた。
「……食いすぎだ!! 勘定の事を少しは考えろ」
食費に悩まされながら二人は次の街へいく。