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第十一章

「はぁ」



退屈を嫌味なばかりに知らせる溜息が玉座から漏れるのは何回目だろうか。研ぎ澄まされた大理石の床が輝き、幾多の戦場を渡り歩いた強者の部下を並べ、内装なぞ見るだけで金がかかっている家具や食事がテーブルに並べられている。


まさに世界の頂点に君臨する者に相応しい光景に魔王は溜息を漏らす。片手に持っていた林檎を一かじりすると甘く美味いが何かが足りない。



「あぁ適当に食ってていいぞ」



部下が食事をしてる姿を見下ろすと部下の変わりように気付く。以前はギラギラと眼光を輝かせていたが今では鋭さは抜け丸くなっていくのがわかる。部下を変えたのは日常……世界最強の軍団に挑む者はもういない。


毎日ただ生きてるだけで好き勝手出来てしまう日常。他の国は魔王を恐れ従うのみで反逆など起こりうるはずがない。そんな現実に魔王は退屈していた。



「最強ってのは暇なもんだな」



今も思えばベルカを二度も滅ぼした戦いの日々こそが一番楽しかった。いつ死んでもおかしくない戦場で数え切れないほどの戦いは血潮を熱くさせ心臓を躍らせてくれた。


魔王ユウヤは根っからの戦い好き。食事の時も寝る時も戦いの事ばかり考えていたが、敵がいなくなった今、自身の戦いへの欲求が薄れ始めてきた事に気付く。


戦いとは敵がいなくては始まらない……いない。単身殴りこみをかけるぐらいのぶっ飛んだ敵がいないかと溜息をつくと一人の部下が血まみれで飛び込んでくる。



「魔王様!!」



傷は酷く腹を抑えながらよろよろと近づいてくると倒れるようにうずくまる。



「魔王様……ニノ様が」



「ニノがどうした」



「頑丈に閉じ込めていた牢獄から隙を見て抜けだしました……すみません」



その言葉を最後に息を失うと同時に玉座の間の扉が蹴破られ、茶色く穴だらけの布一枚だけのニノが現れる。



「ようやく貴方の前に立ったぞ父上!!」



頬はこけ明らかにやせ細っているが闘志は消えず、片手には倉庫に閉まっていたかつてウィルが作りだした刀が握られていた。



「確か最後に食事を与えたのは四日前だったかな娘よ。食の恨みか?」



「ベルカを滅ぼし何万ではすまぬ命を踏み潰した罪をここで償ってもらうぞ!!」



「まったくさすが我が娘だな。何度でも歯向かうその姿勢を見るだけで子を残してよかったと思うぞ」



ニノは飛び出す――食事を楽しんでいたテーブルに乗ると一気に駆け出し豪華な食事は左右に弾けるように散乱し部下達は対応が一瞬遅れる。



「貴方の今までの行いが私の迷いを消してくれる!! なんの迷いもなく貴方を斬れるぞ!!」



テーブルの端までいくと飛び上がり玉座に座る魔王に向かい刀を叩き落とす。斬った感触に人の肉はなく鉄だけ……玉座は左右に真っ二つに割れ、その後ろから黒のロングコートを靡かせ魔王は笑う。



「やはり血だな。理由はどうあれ戦いにそこまで貪欲になれるのは俺の血が流れてるからだな」



魔王の中で血潮が熱く込み上げてくる、久々の敵が娘であれば更に燃え上がっていく。野太刀を抜くと構える前にニノは斬り込んでくる。速さタイミング申し分ないがただ一つだけ欠けていた。一太刀を受け止めた魔王はニノの顔に迫り言う。



「さすがに四日も飯を食わないと力不足だなニノぉ~」



ニノが離れようとした瞬間に手首を掴むと同時に野太刀の柄を腹に突き刺すと、ニノは疲労と空腹もあってか意識を失い倒れてしまう。



「魔王様!!」



遅れてきた部下達がニノに向かい剣を突き刺そうとした瞬間に魔王は止める。



「そうだな。こいつをどこか適当な場所に放り投げてこい」



魔王は思いつく。敵がいないのなら作ってしまえばいい。素材は一級の自分の娘……いつか自分を殺しにくると思うと胸が高鳴り笑みが隠せない。部下に担がれていくニノの顔を見ながら一言だけ親の言葉を残す。



「頑張れよニノ。お父さん応援してるからなぁ」

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