十
称えるような笑みは顔から落ちるようになくなり、冷徹で死んだ魚のような目でバルボッサは騎士達を見下ろす。大袈裟に広げてた手も腰に手を当て溜息をわざとらしく漏らし場の空気を変えていく。
「お前らが誇っている正義なんて民にはいい迷惑だよ。わからんかな」
バルボッサの言葉に騎士達から動揺の声が漏れるが正面に座るヘクターだけは表情動かさず聞く。
「ベルカが栄えた時代、各地で反乱を起こそうと盗賊共が村を襲い、女子供をさらい売るなど悪行が目立ったが今は違う。魔王という絶対の存在が悪党共を抑えつけ少なくともベルカの時代よりも平和だ」
言葉の温度は下がりバルボッサは淡々と語り続けていく。
「そんな時に滅んだベルカの生き残りが反乱を起こしてみろ。再び戦いの渦が民を飲み込み今度こそ取り返しのつかない犠牲者が出るぞ」
腕を組み黙って聞いていたヘクターはようやく口を開くと声を上げて食堂中に笑い声を響かせた。
「ハハハハ!! 笑わせるな王よ!!」
「なにがおかしい」
席から立つとヘクターはバルボッサに指を突きつけ滴り顔で言う。無礼を承知で暴言を次々に吐いていく。
「御託を並べているが、あんたは結局魔王が怖いから黙って言う事聞いておきましょう。そう言いたいんだろ」
「この狂人共め!! 世界の平和を」
「世界の平和を言うなら魔王を倒し自らが世界を収めるくらいの気概を見せてみろ!!」
ヘクターの暴言の後には決裂の沈黙が流れ、騎士達は大きな溜息と共に席を立っていく。
「この亡霊共め!! わからぬかヘクターその歳になっても……今の魔王にどう勝てる!!」
「我らベルカは確かに滅んでいる。故に亡霊だな、だからこそ怖くない。もう死んでるんだよ俺たちは」
食堂を出ていきかけた時にヘクターの背中ごしにバルボッサは口元を歪めて騎士団を招いた本当の目的を遂行していく。
「まぁ最初から話合いでわかってくれると思ってなかったが……残念だよ」
城を出て城門までもう少しの所で騎士団の足が止まる。目の前には血の匂いを全身に浴びた連中、傭兵達が大量に待ち構えていた。ヘクターが罠にかかったと気付く頃には城の中から顔を出したバルボッサの声が響く。
「さぁ騎士団諸君!! そこまで言うならば君達の力を私に見せてくれたまえ」
城門を潜り次々に傭兵は現れ騎士団を囲んでいく。これから殺しを出来ると喜びの声を上げる傭兵の中で二つの声が重なる。
「あぁようやくめんどくさい話終わりかよ~たく無駄足だったな旦那」
「とりあえずこの薄汚い連中殺していいんですね」
エリオは我先にと傭兵を貫き、フェルは蛇腹剣を伸ばし切り裂く。それが合図となり一斉に戦いは始まる。騎士団は希望を与えられ裏切られた……それでも戦う。戦うしかない。
白銀の鎧を敵の血で染め上げヘクターの復讐は振り上げた剣と共に加速していく。