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次の日は最悪だった。頭痛に頭を抱えながら騎士団に帰ると無言で威圧してくるヘクターが出迎え、素直に事の次第を話すと説教の始まり。無断で荒事した挙句敗者になり情けで生かされたと聞いたヘクターは怒りを通り越し呆れ果ててしまう。


長い説教が終わりキャンプに戻ると先輩から質問され続け休む間もなく出発。揺れる馬車の中で水を飲みながら大きく溜息をつき正面のイリヤをなんとなく見る。



「……」



相変わらずの無表情だが、恵まれた容姿のおかげで絵になりエリオはついついニヤニヤと口元を緩ませるとイリヤの顔が不思議そうな表情になっていく。



「なんですか? なんかこう、凄く気持ち悪い顔してますよエリオ」



好きな女の子に気持ち悪いと言われ気にしないようにするにはエリオは若すぎた。心臓に鋼鉄のナイフを刺されたように衝撃が貫き、かけていた眼鏡がずり落ちてしまう。揺れる馬車の中で動揺を悟られないようエリオは作り笑顔で誤魔化す自分が悲しかった。



「おい着いたぞ」



ヘクターの野太くよく響く声が聞こえ馬車から顔を出すと、そこは城下町だった。大通りを堂々と騎士団の一行が通ると人々は興味を示し中々活気に溢れてる街。商売も盛んであり、見た事のないような食材や骨董品と見てるだけで飽きない風景にエリオは目を輝かせた。



「すげぇ!! ヘクターの旦那なんだここ」



「だから旦那はよせ。この国は珍しく騎士団を迎え入れるといってきた、魔王に支配された世界ではあるがまだまだ捨てたもんじゃないなフハハハハ」



珍しく大口を開けて笑うヘクター、嬉しかった。今まで拠点なしの根無し草のような旅ではあったがようやく味方が現れた事にヘクターは喜びを隠せない。騎士達もようやく休めると安堵の息を漏らし招かれた城の門を潜る。



「こちらへどうぞ」



一人の老執事が馬車を降りた一行を城内に案内し食堂へ通す。縦長のテーブルが何個もあり騎士団全てが座っても席は余る。食欲をそそる匂いが部屋に入ってくると同時に肉が多めの食事がテーブルに並べられ生唾を飲む音が響く。



「皆さん長旅ご苦労様です。私がこの国を治めるバルボッサです」



揉み上げ部分から顎のラインに立派な白髭を生やす老人は両手を広げ食堂に現れると、ヘクターは席を立ち一例で感謝を伝える。



「この度は我らが宿敵魔王への復讐を知りながら受け入れ感謝します」



「そう硬くならないでください。いやいや!! まずは腹を満たしてください」



バルボッサは意外にもフランクな雰囲気で騎士団に並べられた料理を進めると我慢しきれなくなった一人がかぶりつくと連鎖的に皆が勢いよく食らいついていく。お世辞にも上品とは言えない食べっぷりにヘクターは眉を吊り上げていく。



「しかしこの時代に魔王に挑むとはなんとも豪気ですな」



王であるバルボッサ自身の豪快に肉にかぶりつくとヘクターも口に運ぶ。



「どの国も魔王と名前を出しただけで怯えるばかりです。相談があるのですが、我らの拠点をここで構えてもよろしいでしょうか」



いつものヘクターは威圧的だが、さすがに今回は礼儀正しく交渉を進めていく。拠点をもらう変わりに差し出す物を考えているとバルボッサは肉汁を飛ばしながら笑い飛ばす。



「結構結構!! 城の外に空いた平地があるので好きに使って構いませんぞ。私も昔は戦場を駆けいく事に夢見ましたが王族という立場が邪魔しましてね。老い先短い今になって燃えてまいりましたぞ」



「感謝いたします王よ。しかし私が言うのもなんですが国民は納得するのでしょうか」



「こう見えて私は国民に人気ありましてね。まぁなんとかしますので安心してください」



その言葉を聞くと本当に意味でヘクターは安心した。拠点さえあれば補給や兵を増強しても問題ない。今まで抱えてた問題が一気に解決し大きく息を吐くと隣がうるさい。



「うぉ!! うめぇ!! おいフェルこの肉やべぇぞ」



「これは美味ですね。エリオその肉ください」



「お前間接キスいいのか!! いや俺は別に照れてるわけじゃねぇからな!!」



かりにも王の近くで食事する物が肉を取り合い、しまいには騒ぎだす始末にヘクターは怒りの鉄拳を二人に叩きこみ黙らせる。皆が食事を済ませ腹をさすり満足の顔をしているとバルボッサが立ち上がる。



「勇敢な戦士諸君!! 私は一度滅ぼされたベルカ騎士団がよもやここまでの進撃してくるとは思わなかった!!」



両手を広げ声高らかに食堂に響かせバルボッサは吼えていく。



「自国の復讐を遂げるまで突き進む君達は美しい!! 年甲斐もなく胸躍った!! そんな諸君に感謝の意味を込めて一言だけ言おう」



騎士達も褒め称えられ誇らしい気分に浸っていく。ベルカ崩壊後に待っていたのは非難の声。認められる事がない毎日を送ってきた騎士にはバルボッサの言葉を骨まで染みるようだった。



「お前ら馬鹿だろ」



口調は変わり笑顔が消えてなくなったバルボッサから出た言葉は氷の刃のように冷たい。

 

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