六
受ければ砕け、避けようにも左右逃げ場なし。一瞬で体に流れる血が氷のように冷たくなり、先ほどまで体中に浮かべてた汗は引いていく……逃げ場などない。ならば作るしかない。
そのヒントをくれたのが天井のライトだった。考えるよりも生存本能で動き地面に槍を突き刺し飛び上がる。体を持ち上げるように空へ駆け上がりエリオは重力に逆らい続けた。
「だらぁあああああ!!」
男が丸太を振りぬくと突き刺さったままの槍を勢いより弾き飛ばすがエリオの姿は消えていた。地面に光速で回転する影が映り顔を上げてると槍と共に回転するエリオが落下してくる。
「グッ!!」
迎撃は不可能。頭上より落ちてくる物に対し防御しか出来ない事はわかっている男は巨大な丸太を盾に変えていく。
「その首貰ったぁ!!」
回転しながら空中から落下し吼えるエリオの一撃は見事に丸太に突き刺さる。切っ先が深く刺さると木製の丸太に亀裂が入りやがて砕けていく。雷に落とされた樹木の如く粉砕いていく光景はエリオに勝負の時を告げる。
「グハハ!! やるじゃねぇか小僧!!」
粉々に粉砕する木片の中から二つの光が一瞬差し込むが、仕留めの一撃を止める理由はなくエリオの矛先は加速していく……金属が響くと男は豪快に笑いながら丸太の中から取り出した双剣を握っていた。
「驚いたか小僧!! 隠し武器だぁ」
まるで子供。してやったりと笑う男は子供のように笑い観客に向け双剣を振り回し盛り上げていく。
「丸太の中に剣。おっさんなんだそりゃ」
「面白いだろう。元々力任せで戦うが、剣にも少々自信があってな。双剣のゾディアン、昔の通り名だ」
名乗り上げたゾディアンが持つ双剣は炎と水を纏い勢いよく音を鳴らしている。水の方は刃を囲み切れ味が何倍にも膨れ上がっている。炎の方は刀身が見えないほどに燃え上がり、その派手さに観客は魅了された。
「俺達みたいな糞ったれは戦いこそ人生。戦わなきゃ死んだも同じだ」
「いきなり何格好つけんだおっさん?」
「すまんなぁ~お前みたいな若いのを見ると刺激されて胸が高鳴っちまうんだ!!」
ゾディアンは槍に対しなんの迷いもなく走りだし真っ向から小細工なし。当然エリオは迎撃のために構え間合いに入った瞬間に突き殺す準備を整えるがゾディアンの動きに眉を上げる。
遙か遠い間合いで剣を振り上げている。剣どころか槍すら届かない間合いでゾディアンは雄叫びを上げて勢いよく剣を振り下ろしていくと――大気が焦げていく。
「――ッ!!」
エリオは声を失う。目の前が突然赤と白に染まり炎の壁が迫ってきた。気付けば地面は黒く焦げ上がりエリオの横を通過していた。何かが通った痕跡だけを残すが正体はすぐわかる。ゾディアンの炎の剣がまるで爆発したかのように膨れ上がっていた。
「驚いたか? 射程範囲は十メートルくらいだな。槍の間合いよりも広いぞ」
爆破するように炎が襲い掛かってくる魔法。エリオが初めてみる魔法だった。地面はまだ熱が冷めず地面から煙を上げ、煙の中で双剣を握るゾディアンは笑う。




