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心地よい揺れでテツは微かに目蓋を開けるとうなじが見え少し汗臭い匂いが嗅覚を刺激する、最後に見た光景は学園長の無邪気な笑顔、学園にきて初めての敗北は強烈な頭痛と共に脳裏に刻み込まれていく。


周辺から雑音が聞こえ見渡すと通行人がこちらを見ている、露店が並ぶ賑やかな場所とわかり自分がおんぶされてる事をようやく自覚する。



「お、起きたかテツ」



「あぁ、痛!!」



声でニノとわかったが振り返った瞬間に鼻先に後頭部が当たり涙が出てしまう、露店が並ぶ大通りを男女がおんぶする姿は目立つがテツに気にしてる余裕などない、頭がズキズキと痛み今はニノに体を任せる他ない。


しかしニノはせいぜい160ぐらいの背丈だ170少しのテツを抱えるのは大変だろうと思うが表情はいつもの無表情のまま軽々とテツを運ぶ、それどころか露店によりテツを抱えたまま肉を買い器用に食べてしまう。



「しかし驚いたぞテツ、お前が学園長に挑むとはな」



「あっちが挑んできたんだよ!! たくっあのおっさんとんでもねぇよ」



「まぁあの人はあーゆ人だ、さてそろそろ着くぞ」



大通りを抜けて路地裏を少し歩くと何もない道に出る、左右には草木が生え一本道が続いて先には一件の屋敷が見え近づくとニノが鉄格子を開け進み更に扉を開けて中に入るとテーブルと台所がある部屋につく。


テツを下ろすとニノは椅子に座りテーブルの上に買ってきた肉を袋から出しかぶりつく、テツは疑問が浮かぶ、不法侵入? ウィルの家に帰るんじゃないのか? と考えていると骨つきの肉をニノが差し出してきた。



「ニノこの屋敷はなんだ」

「私達の家だ」

「私……達?」

「あぁ私達は今日からここで暮らすんだ」

「オヴェエエエエエエ!!」



南米に生息する珍しい鳥のような鳴き声を出しテツは座っていた椅子を蹴飛ばし立ちあがる、ニノは耳を抑え目を細めながらうるさいと一言言うが今のテツには関係ない、それ所ではないのだ。



「おまおまおまおま!! 何考えてんだ、男女が一つ屋根の下でって……」



「何がだ、むしろ別々で暮らした方が面倒だろ?」



「お前は自分が女って自覚がないのか!! それとも俺を男と認識してないだけか!!」



制服の上着を脱ぎシャツ一枚になったニノが背中を見せ横顔でテツを見て微かに微笑む、どこか悪戯をするような子供の顔になりフフンと鼻を鳴らし指を1本立ててからかうように言う。



「まさか私に手を出すのか? 安心しろテツを男としては見てるぞ、だが恋愛対象外」



「お前みたいな子供に手を出すわけがねぇだろ!! バーカ!!」



「テツはいい反応するな、ついついからかってしまう……さて風呂に入ってくるから、あ~え~と覗くなよ? だっけかなお決まりの台詞は」



ニノが出ていきしばらくするとシャワーの音が聞こえテツは椅子に座りテーブルに肘をつき頭を抑える、まるでベタすぎる展開、もうベタすぎて話のネタにすらならない展開に――しかし美少女との同棲生活は胸ときめくはずなのにテツは震えてしまう。


もう慣れたはずなのにニノが怖い、あのシーンが蘇り震えてしまう、手を出せるわけがないだろうと呟いてテツは部屋を移るとベッドだけあるシンプルな部屋に入り寝転がる。


未だに首が宙に浮き胴体から噴水のように吹き出す血潮がたまに夢に出て目覚めると寝汗でビッショリになる事がある、普段は平気だがたまにニノの表情がたまらなく怖い。



「丸さん……先輩、元気にしてるかなぁ」



仕事仲間にはもう何か月も会ってない気がした、今思えば元の世界の生活がいかに幸せだったか実感する、こっちの世界は常に死と隣合わせのような気分になり恐怖と戦い気が狂いそうになってしまう。


扉を開けっぱなしにしていたのかニノが風呂上がりの石鹸の匂いと一緒に顔だけ出す、口元には白髭が生えおそらくは牛乳を飲んだのかテツが笑う。



「私はもう寝るぞ、テツもあまり夜更かしするなよ」



「母ちゃんみたいな事言うなよ、俺も今日は疲れたし寝るわ」



ニノがいなくなると少し汚れた天井を見てゆっくりと目蓋を閉じて眠気に身を任せる、学園初日でいろいろあり疲れが一気に意識を奪いにかかりテツは1分もしない内に眠りにつく。


こうして33歳、元交通誘導員の学園生活は始まった。



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