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エリオは飢えていた。二日水を飲まず我慢してるように心の底から欲しい物がある。今の自分を変えるために、それを手に入れるために幾多の戦場を渡り歩き、数え切れないほどの命をその槍で貫いてきた。


相手の喉、腹、顔を貫き自身の手を鮮血の染め上げ欲しい物に近づく。形ある物ではないが確かに存在はする絶対的な物……強さだ。何者が前に立とうと叩き伏せるような強さが欲しい。



「今夜も来たぜ」



フェルにはもちろん、ヘクターにまで秘密にしている場所へ降り立つ。天井からは眩しいライトに円形に囲まれたコロシアムの中は賭け事に興奮している観客の声で揺れているようだった。


ベルカ崩壊後に待っていたのは人の強欲が溢れ出す様な戦争。その戦いで名を上げたいと思う野蛮な連中は人の数ほどいるのではないかと思うくらい多い。血の気の多い連中が腕試しの場所を求めて集まる場所に今夜もエリオは立つ。



「待ってたぞ糞餓鬼!!」

「今夜はお前に賭けたんだ!!」

「そんな子供やっちまえ!!」



エリオの名はコロシアムでは有名になっていた。新人として表れ連戦連勝。観客たちは驚き、そして歓喜した。普段はベテラン連中が無難に勝つ展開が多いため新鮮で興奮する。


なぜ勝てるか? そう考えると自然に答えは出る。エリオは毎日ヘクターとの勝負を繰り返しながら戦場で実戦を詰んできている。強くないわけがない。



「ふぅ~」



深呼吸し槍の矛先を反対側の出口に向けるとうっすら影が見える。体格はエリオと同じくらいだがシルエットは大きい。やがて姿を現すと中年男性が笑っていた。肩に担ぐのは巨大な丸太。


装備は古臭い。ベルカ騎士団装備の白銀の鎧のエリオと並ぶと薄汚れた鎧が際立ってしまう。重量感溢れる音を立てて丸太を落とすと中年男性はマジマジとエリオを見る。



「確かに若いな。小僧お前ここ何回目だ」



「数えてないが~十回目ぐらいかな」



「そりゃ期待の新人だわな。ここのルールーなら尚更だ」



男は両手で丸太を持ち上げ大きく横に構えるとそれが開始の合図となる。審判はいなく、勝敗を決めるのは対戦者しかいない。第三者介入を許さない完全決着という単純な規則。



「殺されても文句は言わない。だろおっさん」



「おうよ!! まぁ命乞いするなら助けてやるぞ」



エリオは思考をフル回転して戦術を組み立てていく。リーチは若干丸太の方が長いが、あんな重い物を振り回す分小回りが槍にある。一番やってはいけない事は攻撃を受ける事……一撃でも食らえば鎧ごと粉砕されそうなくらいに太く大きい。



「なんだい様子見かい? 若いんだから勢い見せてくれよ」



短く切りそろえた短髪を撫でながら男は笑う。観客も動かない二人にブーイングを上げるがエリオの耳には届かない。やれやれと男は呟くと丸太を抱え走り出す。



「おぉおおりゃぁあああ」



豪快に丸太を振り回すがエリオは避けていく。隙をついて反撃に出たいが予想より遙かに速い回転率に下がるしかない。まるで暴風。近づく物全て叩き壊すような力任せな戦法にエリオは舌打ちを鳴らす。



「力任せな戦い方だと笑いたいか!!」



「よく喋るおっさんだな!!」



矛先に仕掛けられた電流がある限り一撃相手に入れれば勝てる。人を殺すには十分な電流があるはずだが、間合いに入れない。力任せと言いながら連携は組み立てられ、隙を突くのは容易ではない。



「くっ」



逃げて逃げ回るエリオを捕らえるように壁に背を預けてしまう。追い詰められた事を知った観客は雄叫びを上げエリオの死を後押しするように響き渡る。


横からくる風が破裂するような音を聞きながら予想する。このままでは自分の体は粉々にされ血と骨が散乱する未来が……





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