一
少数の騎士団が逆転の手は少ない。正面からいけば数の暴力の押しつぶされてしまう、ならば奇襲しかない。騎士を志してた者がやる事ではないがそんな事を言っている場合ではない。
ヘクターが提案した作戦は単純だった。魔王の支配された街や国を一つ一つ取り戻していこう。何十年かかろうが少しづつ領土を取り戻せば必ず勝機は出る、途方もない作戦だがそれしか打つ手はなし。
「にゃははは!! タダで食べる飯ほど美味いもんはねぇ!!」
「この服臭いです」
フェルとエリオはある酒場でヘクターから渡された金で好き放題飲み食い……豪遊していた。回りは騎士を倒し敵なしになった傭兵達が騒いでいる。アルコールの入ったジョッキを勢いよくぶつけ飲み比べしている傭兵達の顔は勝利の優越感が出ていた。
二人は傭兵達に合わせ緑色に変色したシャツと薄汚れ裾の部分が千切れてるズボンと変装していた。フェルは頭にバンダナまで巻き額どころか目も隠れつつある。
「お、そうだ武器は届いたのか?」
「はいここに」
腰の備えてる剣を見せると刀身の何箇所かに接続部分があり、かつて魔王に破壊された蛇腹剣は復活していた。エリオはフェルと共に注文した自慢の槍を眺め作り手に感謝する。
「あの爺さん最初は怪しかったが腕は確かだな。テツの名前出した急に態度変えやがって」
「このバンダナサイズが大きすぎます」
まだ慣れないバンダナをいじり何度も付け直すフェルが可愛らしく見えエリオが肘をつき眺めてると一人の傭兵が近づいてくる。フェルを背後から抱きしめると酒臭い息を吐きながら顔を頬に擦っていく。
「よぉ~お前ら若いなぁ~駆け出しの傭兵か? しかし可愛い娘だな。どうだい俺と遊ばないかヒャハハハ!!」
「おいてめぇ」
即座にエリオが反応し槍を突き出すと男はいなかった。フェルの背後から消え大きく天井に頭から突き刺さっている。下から拳を大きく上げた状態のままの決めポーズするがバンダナがズレて視界が塞がりあたふたする様子。
「あぁもう!!」
「相変わらずの怪力……しかしこんな事したら」
他の傭兵が黙っていないだろうと振り向くと一瞬静止したように止まった後に傭兵達は笑い出した。天井に突き刺さった男を指さして笑い再び飲み続けていく。
「やるな嬢ちゃん!!」
今度は勢いよく肩を叩きながらフェルと同じくバンダナを巻いた女性がくる。胸部分は布を巻いただけとヘソ丸出しと露出が激しい姿にエリオが視線を反らす。
「貴方は」
「あたいはここのマスターさ!! 今の技なんだ? こう下から巻きこむような」
「アッパーカットです」
フェルの怪力が気に入ったのかサービスといい大ジョッキをテーブルに置き座る。腰には二本の手斧があり傭兵ばかりくる店の店主らしい武装だった。
「マスター質問があります!!」
「あら可愛い眼鏡の坊やだね、娼婦が好みそうなタイプだわ」
「マジッすか!! じゃなくて、今この街を支配してる奴誰っすか?」
一度考えたふりをしたがすぐに酒を飲みだし笑い出す。
「ナハハハ!! 知らないねぇ~なんせ支配したばっかりだから我先にと傭兵達が争ってるからね」
「なんかベルカに勝っても纏まりがない連中ですね」
「そりゃそうだよ~それにベルカだって昔は奴隷制度とかいろいろしてたしねぇ~結局世界を支配するのは正義だの平和だの綺麗事じゃなく力って事が魔王様が証明したのさ」
それだけ聞くとフェルは席を立ち酒場を出て行く。エリオもポケットから勘定を出すとマスターは笑顔で手を振っていた。
外に出ると浮浪者が道の端に寝っころがり、傭兵達が武器片手に自慢や喧嘩すると治安は最悪。フェルは何度巻いても合わないバンダナにイライラしながら大きく深呼吸する。
「やっぱりあそこいくしかないですね」
「あぁ絶対強い奴いるよなぁ~行きたくねぇ」
街より少し離れた場所に城壁を崩され国旗を燃やされた城がかろうじて建っていた。近づくたびに強面の傭兵達の数は増え睨みつけてくる。腕を組みながら顔だけ近づけてくる者。武器をちらつかけニヤけてくる者と異常者の巣窟に二人は足を進めていく。