第十章
王国ベルカは負けた。全勢力を投入し魔王に挑んだ結果は敗北――ベルカの街は傭兵達に蹂躙され、燃やされ。シンボルであった宮殿、城、全て破壊の限りをつくされ数日で廃墟にされてしまう。
人々は悲鳴を上げながら逃げるが大半を殺され、今では街中に死体が大量に転がっている。テツ達が通っていた学園も瓦礫の山に変えられベルカ全体の面影は消え、敗戦国の末路を辿っていった。
王ルーファスも行方が知れず生きてるかどうか怪しい中で一人の男が立ち上がる。生き残った騎士を集め再び反撃の機会を信じる男はヘクター。二度もベルカを滅ぼした魔王への怒りは敗北如きでは収まらずベルカ兵の希望となる。
「……」
「ここにいたかフェル。もう行くってよ」
瓦礫に腰を下ろし学園の跡地を見つめ物思いにふけてるフェルはエリオに声に反応する。
「死体の撤去ももうすぐ終わるそうだ」
「そうですか、エリオ貴方には感謝してます。あのままでは私は何も出来ず殺されていたでしょう」
「そうか!! ままぁ俺もやる時はやるんだぜ!!」
銀髪を靡かせながら廃墟になった風景が重なり寂しそうな背中に見えてしまう。エリオはフェルが声を出さずに泣いているように見えて少しづつ後ろから近づいていく。
「俺でよかったらいつでも力なるぜ」
肩を抱き寄せて少し強引に抱きついたエリオは心臓が破裂しそうなくらいに膨れ上がるが、恋心と好奇心で感情があまり表に出ないフェルに勝負をかける。
「エリオ。貴方は確かに優秀ですが時折意味不明なスキンシップがありますね」
「え……あぁ」
抱きついて甘い台詞を囁いてもフェルは変わらず無表情のまま遠くを見ている。抱きついてるのに悲しくなり離れてると男が鎧をガチャガチャ鳴らし近づいてきた。
「おい速く支度しろ、ささっといくぞ」
「あ、ヘクターのおっさん」
「エリオ、お前は凄い奴だな。ベルカで超偉い俺をおっさんと呼ぶとはわな~」
片目の古傷を歪ませエリオを引きずりながらキャンプに戻っていく。敗戦の騎士達の士気は下がり見ているだけで気が落ちてくるエリオは馬車の二台に荷物を載せていく。
「おいフェルもここに乗れよ」
「なんでですか」
「いやお前小さいから荷物と変わらないし、少し狭いけど馬の上ほど揺れないし」
ジト~とフェルには珍しい表情で睨まれたエリオは悪い気がしない。いつも無表情だがけなされたり馬鹿にされると可愛らしい顔を見せるのでエリオは生き抜き程度にやる。
「そんな怒るなよ。あ!! もしかして小さい事気にしてるとか可愛い所あるの」
「うるさいです。そんな外見的特徴を気にするほど私の器は小さくありません」
「ふ~ん」
二人は二台に乗り足をブラブラさせながら灰色の空を見つめ溜息が止まらない。いくら騎士達を寄せ集めたとしても今の魔王に対しては無力もいい所。せっかく騎士団に入りエリートコース入りしたエリオにしたらやってられない。
「皆どーしてるかなぁ」
「テツさんはともかくニノはくたばってるんじゃないでしょうか」
「丁寧言葉で酷い事言うなよ。あぁ~これからどうすっかなぁ~」
いっそ落ち目の騎士団を抜けて傭兵への転職で稼ぐ……そんな考えを頭で巡らせながらフェルの美しい横顔を見ると変わらない気持ちだけある。
{一緒にいてぇな}
最強の種族の末裔フェルと新人騎士のエリオの未来は暗闇。敗戦国が無駄あがきしている姿は傭兵の笑い話され屈辱を被りながらヘクターは戦い続けていく。