六
1時間みっちり説教されたが納得はしていない、金髪から仕掛けてきて倒しただけなのにまるでテツが悪者扱いだ、確かにやりすぎたが誇りの問題の戦いに手加減できるほどテツは優しくはない。
説教後はある部屋に連れてこられる部屋の札には「学園長室」さすがにこの時ばかりはテツは焦る、停学か下手をすれば退学がありうる、学園のトップが直々に呼び出したのだ、早くも夢見た学園生活が終わりを告げるのではないかと肩を落としながら部屋に入ると。
「ようお前か、噂通りおっさんだなククッ」
歳は40代だろうか、白髪というより真っ白な短髪でギラギラした瞳に服の上からでもわかる筋肉――第一印象は肉食動物のような男が椅子ではなく机の上で胡座をかいていた、一応は茶色のスーツを着込んでいるが学園長室で机に座る時点で態度は最悪と思った時に室内には男しかいないと気づく。
「話を聞いて久々に胸が躍ったぞ、糞生意気なエリートを素手で倒したそうだな」
「はぁ、あの失礼ですが学園長でいらっしゃいますか」
「堅苦しい敬語はよしてくれ、まぁ学園長は俺だが……おいどうやって素手で勝ったんだ詳しく教えろ」
机から飛ぶとソファーに腰をかけてテツも反対側に座る、学園長は子供がおとぎ話を聞くように瞳を輝かせ見つめてくるのでテツは仕方なく細かく説明してみせた、数年間ボクシングを習いその技術で剣術を圧倒し完膚無きまで叩き伏せた事を。
最初は好奇心旺盛な態度で学園長が聞いていたのだがだんだんと表情が曇り首が傾いていく、テツの話には知らない事が多すぎる、そもそもボクシングなど40年以上生きてきたが聞いた事も見た事もない。
「ウィルからの紹介で学園に入れたが、テツお前どこからきた」
「信じてもらえないでしょうが、こことは違う世界です」
「つまり違う世界の技術なんだなボクシングってやつは」
テツの話で火がついたのか学園長は部屋に置いてあった木刀を持ち笑いながら構える、両手で握り半身になり腕を垂らし軽く飛んで体をほぐす、テツはすぐに気づき頭を抱えてしまう。
「面白いそのボクシング俺にも見せてくれ」
「一応学園長してる方がこんな喧嘩まがいな事していいんですか」
「最初に言っておくぞ、俺は戦う事が大好きなんだ何よりも……歳がいもないと笑う者もいたが関係ねぇ、テツお前は面白そうだな別世界の技術見せてくれよ」
席を立ちテツも構え試してみたいと思う、リング以外でボクシングを使ったのは先程の金髪が初めてでありまだ勝利の余韻と優越感の感触が手に残っている、学園にきて初日で二回目の喧嘩――昔読んだ不良漫画を思い出し笑ってしまう、学園長の期待に応えるべくステップを刻む。
「……」
しかし対峙してみると先程まで炎のように燃えていた学園長の殺気は消えてしまう、静かだ静かすぎる、ただ立っているだけなのに隙が見当たらなので試しにフェイントを入れても微動だにしない。
金髪なんて比較にならない程の使い手だった、少しでも隙を見せたら噛み付いてくる獣のように学園長はジリジリと距離を詰めてくる、後半歩……とテツは学園長の足元を見る、後たった半歩で踏み込めると考えていると。
「シッ!!」
テツの拳がギリギリ届かない間合いから木刀は放たれた、金髪とは速度が比べ物にならなく見る前に上半身を後ろに逃がし避けるが前髪が数本目の前で落ちる光景は嫌な汗が出てしまう、一度攻めに転じた学園長は次々に鋭い斬撃で空気を切り裂いてくるがテツは逃げる、脚を使い円を描くように学園長の周辺を回り続ける。
小回りと手数ならテツに分がある、救いなのは部屋が広くリングと同じ感覚で戦えた事だ、常に左から回り込み学園長を動かし続け揺さぶっていき牽制で出したジャブが顔を捕られる、ダメージはないがこれを機にテツの拳は次々に叩かき込まれていく。
「このちょこまかとっ!!」
嘲笑うかのように脚を使い勝負に出る、今まで左回りだったが逆に右回りにスイッチしたその瞬間こそが勝負の時、慣れてない動きに加え逆方向からの奇襲とテツは渾身のストレートを放つ、体重を上手く乗せて少し大振りだが問題はないはずだが……
「ハッようやく慣れてきたぜ、中々面白い曲芸だな」
拳は空を切り空しく何もない空間で停止してしまう、横から木刀が迫ってくる音が聞こえテツは誤算に気づく、相手の力量はテツの想像に遙か上をいっており、なおかつボクサーとしての動きを見せすぎた事――勝負をかけるなら速い段階で仕掛けるべきだったと。
鈍い音が聞こえると視界は暗くなりブラックアウトにも似た現象でテツは意識を失ってから倒れた。