六
翌日の自由時間から訓練が始まる。マックスは体格もよく強制労働で鍛え上げられた筋肉もあり体は問題はない。しかし生まれて今まで素手で戦うという概念がなく最初は戸惑っていたが次第に形になっていく。
地面を蹴り、腰を回し回転を加えて体重を拳に乗せる。この一連の動作を繰り返していく内にマックスの中で不思議と楽しさが芽生えてくる。それはボクシング習いたてのように新しい技術を学ぶ幸福感のように体に染み渡り訓練に熱を入れていく。
「そうだ!! 打った後は止まらず動くんだ、よし!! その動きを忘れるなよ!!」
訓練開始から数週間もすればマックスの動きは冴えてきて一端の訓練生のようになっていく。教える側のテツも初めて教えるとは思えないほど上手く、戦うよりも教える才能がある事は本人ではなく見ているギンジしか気づかない。
「おぉ!! すげぇ俺強くなってるの実感できるぜハッハー!!」
「調子に乗るな。武器に対抗するレベルまでは遠い」
「ケッ!! じゃ試してみようぜテツ」
新しい技術を手に入れついつい調子に乗ったマックスがテツを挑発すると、わざとらしく腰に手を当て溜息をつき肩を落とす。確かにマックスは上達も早くもしかしたら才能もあるかと思い込んできた矢先の挑戦にテツは拳を上げていく。
「いいだろう。お前の――のわッ!!」
構えた瞬間に拳は飛んできてテツは鍛えた反射神経で避けると返しのフックが巻き込むように襲ってくる。奇襲の二連打はテツの髪の毛一本しか持っていけず、大降りしたマックスに容赦なく拳の連打を浴びせていく。
「グッガ!!」
顔に一発、腹と脇腹に一発づつ叩き込むとマックスは体をくの字に曲がり膝が震えていく。体格差を埋めるようにテツは的確に人体の弱点を攻めると意地になったマックスが手を伸ばしてくる。
「ダメージが大きい時は一旦離れて回復を待てって教えたろうが」
ダメージのせいで遅くなった拳を避け腕を掴むと足を崩し大男のマックスを背負い上げ地面に叩きつける。あまりにも綺麗に決まり投げた本人が驚いてると離れた場所え見ていたギンジも口を開けていた。
「ギンジさん見たかよ!! 一本背負いだぜ!!」
「こりゃ驚いたわ!! このジジイが骨を折って教えた苦労があったもんだな」
二人が喜んでると地面で泡を吹いてるマックスに気付き、慌てながら抱き起こすと何とか意識を取り戻し三人で胡坐をかきながらこれからの事について話す。
「しかしマックスお前囚人達の頭なんだろ? 部下はなんで寄り付かないんだよ」
「俺はお前に負けたからな。頭ってのは一番強い奴のことなんだよ」
「じゃ俺が頭ってわけか!!」
「いやお前は連中から気に入られてないからなククッ」
「んだよそれ!!」
手を振り回しながら怒っていると最近多くなってきている咳をしながらギンジが口を開く。
「ふむ。つまりは新しいボスが今の囚人達の中で生まれたわけか」
「そーゆ事だ。ライアンとかいう汚い奴だ」
「んじゃそいつを倒せば今度こそ囚人達は俺の下につくわけだな」
単純だが一番効果的な手段を思いついたテツに二人は意表を突かれたように目を丸くし拍手する。ここは傭兵の世界を同じで力で意見を押し通す場所だからこそとテツは立ち上がると、離れてこちらを覗くように見ている数人の囚人に指を指して大声を張り上げて挑発めいた暴言を吐いた。
「おい下っ端ぁ!! てめぇら文句があるなら隠れてないで目の前で堂々と言えってんだ!!」
「しかし交通誘導時代のテツが変われば変わるもんだなぁ」
「こいつすげぇ馬鹿な所あるよな? それ見るとこいつに負けた事を本気で悔やむわ」
魔王へ辿りつくためにテツの牢獄の薄汚い連中を力で黙らせる戦いが始まる。