四
翌日ギンジは暑苦しさに目を覚ます。冷たい床に石の壁の牢獄に熱は溜まりにくいはずと目を擦りながらベッドから体を起こすと熱の元になっているテツが動いてた。
上を脱ぎ半裸で腕立てふせを熱気を上げながら繰り返していた。床に汗を落とし水溜りのようにし、ひたすら自分の体を痛めつける光景はギンジには異常にも見えてくる。
「よようテツ。朝から随分熱心じゃねぇか」
「ハァ――ッ!! おはようございまずギンさん。サボってられませんからね」
昔のように仕事をだらけ生きる気力さえも感じられなかったテツの姿はギンジの目の前から消えていた。目標に向かいひたすら積み上げていく姿勢は素直に関心するが……その姿からどこか狂気じみた気配に震えを覚える。
「整列ッ!!」
看守の野太い声と共に牢は空けられ受刑者は出て番号を順番に言っていく。看守はニヤニヤとしながら持っている鋼鉄の棒で気が向いた時に受刑者を容赦なく叩く。もちろん素手でマックスを倒したテツは的にされ腹を一突きされてしまう。
「なんだその目は、言いたい事あったら言ってみろ」
「こんな最下層な人間を痛めつけるお前らは糞の周りを飛ぶ蝿かな。なんつって」
言ってはならない事を口にし看守の棒は勢いよく振り下ろされてしまう。受刑者が見てる前でテツは何度も殴られ最後は虫のように床に這い蹲り看守の笑い者にされてしまう。
歩くだけで骨に響く痛みを抱えながら強制労働の時間はひたすらに耐えた。岩を砕く振動が傷に響き表情を崩しながらテツは耐え忍ぶ。
労働時間が終わると待ちに待った自由時間になりギンジの前で軽くストレッチをし体を伸ばす。ギンジも同じく体を伸ばしテツの前に立つが迷いが出る。
「テツさすがに今日はやめとこうぜ。その傷じゃなぁ」
「俺達には時間が残されてないんですよ。未来ある若者ってわけでもないし、おっさんは気合で頑張らないといけないんですよ」
「気合っていってもなぁ~その傷じゃ……まぁいいか」
ギンジは組み技よりも技を仕掛けられた時の防ぎ方を重点的にテツに教えた。魔王の情報からして使った技は合気道や柔術方面と読み、長き時間で積み上げた知識をテツに叩き込んでいく。
「いいか打撃ならともかく、間接や寝技は時間をかけなきゃ物に出来ないんだ。最低限の防御方法ぐらいでも時間がかかるくらいだ」
「タァハ――ッ!! いい汗かくわ~…十分ですギンジさん。こっちの世界では貴方ぐらいしか知識ないんで助かります」
ギンジから指導を受け熱が入ってきた頃にテツに痛みが走る。それは骨に響く痛みではなく背中に衝撃が伝わり振り向くと看守が棒を振り上げていた。
「ガッ!!」
地面に転げるように倒れると追い討ちの一撃が放たれたが寸前で止まる。棒の前にギンジが立ち塞がり額から血を流し膝から崩れ二人は仰向けになってしまう。
「怪しい事してる奴は見逃せないんでね。これも仕事だ」
心の底から暴力を楽しむような顔で棒を全力で振り下ろす。二人は抵抗もできないまま恐怖で目を閉じる事しかできず、もうすぐくる痛みに備えていく。