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早朝に起こされ整列と点呼。牢獄の前に立たされ看守の鎧の男達に怒鳴られ、時には手に持つ棒で叩かれと人間以下の扱いから受刑者の朝は始まる。


炭鉱では砕いた岩を運ぶ作業と永遠に岩を砕く作業の二種類がある。テツはハンマーから掘削機の小型ドリルに変わりひたすら機械音を鳴らし掘っていく。


隣では目の下に大きなコブを作ったギンジが不機嫌そうにハンマーを振り下ろし時折舌打ちをしテツを挑発していく。テツも機嫌が悪いのか無視しているがやがて我慢の限界がくる。



「んあぁああ!! なんだよ!! 恨みっこなしって言ったろうが!!」



「確かにな。しかし真剣に殴り合った結果俺が勝ったはずなのに傷は俺の方が大きい!! 納得いかん」



「そりゃそうだろうな!! 俺が締め落とされる前にその間抜けな顔に一発入れてやったからなハッハー」



再び喧嘩しそうな空気になるが二人は同時に息をついて作業に戻る。もう体力を無駄にしている余裕はなく計画に移らなければいけない。ギンジは半年いるだけあって人間関係や施設の隅々まで知っているため頼りになる。



「運動時間だテツ。一日十分の運動時間があるだろ、そこでまずは教える奴を見つけなきゃいかん」



「一人や二人じゃ駄目だな。纏めて何十という奴を仲間にすれば数の武器が出来る……しかし本当に落ちたんだな俺」



呼吸するだけで肺に埃が入り粉塵で視界が薄くなっていく。作業している中では強制労働に耐えきれず倒れてしまうケースも少なくない。着ている服は変わりはなく衛生面でも最悪……テツは落ち続けていた。


人生という階段から転げ落ちていき底が見えない地獄を落ちていく。一度だって這い上がった事がないテツは底の底の牢獄でも落ち続けていく……そんな事を考えてる内に作業終了の鐘は鳴らされ食堂に向かう。



「おいお前」



黙って食事をしていると食器に大きな影が重なり見上げるとスキンヘッドの男が腕を組んで見下ろしていた。顔は凸凹に変形し見るも無残な姿でテツの隣に座る。



「なんだ、復讐か。まだ傷が癒えてないのにくるとは根性あるじゃねぇか」



「今すぐてめぇを殺してやりてぇが看守の目がある。運動時間を楽しみにしてろ」



それだけ言うと席を立ち去っていく。正面のギンジはニヤニヤと笑っている。そして薄くらい砂地にいき運動時間が始まる、そこは新人歓迎会を開いた場所で何十もの受刑者が運動をしている。



「さてギンジさん。あんたの技術を俺に仕込んでくれ、ボクシングだけじゃ魔王に勝てない」



「お前が負けた時の状況を詳しく教えろ」



思い出す限りの状況を伝えるとギンジは険しい表情になりヒゲだらけの顎を撫で息を吐く。



「最悪だ。仮定だが、魔王はなんらかの武術を学んでたな。それも超実践派のガチガチのやばいやつだ」



「俺がギンジさんの技を盗んでも勝てそうか」



「正直勝算は薄いが~やるしかねぇな」



テツが技の仕組みや動きを教わろうとした瞬間に再び大きな影が重なり見上げなくてもわかったのように溜息をつく。鉄パイプを二本握り締め、テツに一本を投げると獣のように構える。



「お前もしつこいな。そんなに悔しかったか」



「俺はなこれしか能がねぇんだ。学もねぇしまともに働いても大抵人間関係でこじれてクビだ。わかるか? これで負けるって事は死んだも同然なんだよ!!」



必死だった。スキンヘッドの男はまるで親の仇でも見るような眼力で睨んでくる。テツにはその気持ちがよくわかり鉄パイプを地面に投げ捨て構えていく。



「じゃ何でこんな吐き溜めで諦めたように毎日労働してんだよ」



「黙れ。お前も一緒だろうがぁああああああ」



猪の突進しながら大きく振り被り突撃してきた瞬間にテツは鉄パイプよりも速く懐に潜り込み悶絶のボディブローを突き刺す。呼吸が苦しくなったスキンヘッドは後退するが意地でふんばる。



「どうだ? 俺のこの技術学ぶ気ねぇか?」



「グッ!! どーゆことだ」



「今のお前みたいに振り回してるだけじゃ絶対に勝てないぞ。だったら俺から技を盗んでいった方がよくねぇか」



その言葉が勘に触ったのか再び鉄パイプで殴りかかるがまるで当たらない。テツは蚊のようにスルスルと避け確実にパンチを当てていく。一撃さえ当たれば……体格的に絶対の有利がある以上一撃さえ当たれば状況は変わるはずだと力任せに振り回していく。



「やれぇええマックス!!」



いつの間にか他の受刑者から応援を受けスキンヘッドの男――マックスは何度も何度もテツに突進していくが、その度に殴られ振り回す鉄パイプは空しく空を切る。



「糞がぁああああああ」



幼き頃から悪さばかりして村では嫌われ者だった。傭兵になり一旗上げよう意気込んだが世の広さの前に敗北しこんな所まで落ちてしまう……せめてこんな所でも威張りたいという子供のような発想にイラついていたが、プライドが邪魔し今まで好き勝手やってきた。テツがくるまでは。



「――…ウッ!!」



空振りが続き体力も消費した上に何発も殴られ挙句にマックスの膝は崩れた。砂の地面に自分の汗と血が落ちる光景は屈辱的な敗北を意味し歯を食いしばり立ち上がろうとしても言う事を聞いてはくれない。



「おい聞けクズ野郎共!!」



マックスを倒したテツは集まってきた受刑者に叫んでいく。



「今こいつを完膚なきまでに叩き潰した技を欲しいとは思わないか!!」



遠巻きで監視してた看守は肩を震わせ馬鹿を見るように笑うが、それを見てもテツは言葉を止めない。



「こんな所で一生終わらせる気か悪党共!! 悪党なりのプライドはないのか!! 俺が導いてやる、魔王を倒しその先にある栄光へまで連れてってやる!!」



テツの演説に運動場は静けさに包まれ誰一人言葉を出さないと思ったら大笑いが起こる。それは受刑者ではなく何人かの看守が腹を抱えて笑っている声だった。


結局誰一人テツの所には集まらずその日の運動時間は終わる。 


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