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第九章

地の底の底のような薄暗い石と鉄の匂いの牢獄でテツは目を覚ます。最後に見た光景は目の前が少しづつ暗くなり視界が一気に逆転した……少し思い出しただけでわかってしまう。負けたのだと。


牢獄は薄暗く外の微かな蝋燭の灯りだけが頼り、見渡すと薄汚れた二段ベッドに横たわっている自分に気づき体を起こし灯りに向かい歩くと太い鋼鉄の棒が何本も立てられ先に進めない。



「つまり、囚人かよ」



ベッドに戻り腰を下ろすと自分の体を確認していく。胸に大きな切り傷と腕と拳には後は残るが小さな傷が何箇所かある……契約者としての治癒能力に感謝し一息つくと相棒がいない事に気づく。



「――当然か。むしろなんで殺さなかったんだ魔王の野郎」



牢獄の灯りは常に一定で長時間いたら時間の感覚どころか精神がおかしくなりそうになる。少し時間が経過すると魔王への怒りが込み上げてきて石の壁を殴ってしまう。



「痛てぇえええ!! くそっ生身だったんだよな」



拳をさすってると影が牢獄の外から入ってきて見ると全身甲冑で武装した野太い声の男がくる。



「新入り、お前の先輩だ。せいぜい仲良くしろ」



牢獄は開けられ一人の中年が入ってくる。どうやら二人部屋だったらしく薄暗い部屋にようやく目が慣れてくるとテツの顔が驚きに変わっていく。それは絶対に会えないであろう人物だった。



「マルさん!!」



「ん、お前――…テツか!!」



灰色の囚人服を着て髭は揉み上げから顎にまで伸びホームレスと変わらない外見だが確かにマルさんだった。元の世界にいた頃の交通誘導の頼れる先輩のマルさん。



「なんでここにいるんだマルさん!!」



「そりゃ俺が聞きたいわテツ!!」



互いに再開は嬉しいが状況が状況なために素直に喜べず、牢獄の中で胡座をかきテツがなぜこの世界にきたのかを説明するとマルさんは腕を組み大きく溜息を吐く。



「あのニノちゃんが。こりゃ驚いた」



「いや俺は連れてこられたんですが、マルさんどーやってこの世界にきたんですか」



「あの夜お前忘れ物したろ? 笛だよ笛。一応現場によっては使うから夜中に届けにいってやったんだぞ。そしたらお前の部屋の前で急に目眩がして気づけばこの世界だったわけよ」



話を聞いてる内にテツの顔は真っ青になっていき自分が犯した失敗の大きさに気づき頭を下げた。頭どころか土下座までして冷たい地面に額を擦りつけながら涙声で叫ぶ。



「す……すいません!! 俺が忘れ物さえしなければこんな世界に!! すいません、すいません!!」



「――じゃ俺はお前がこの世界に連れてこられた時の巻き添えって奴か」



一度テツの背中を向けて小さく深呼吸すると短いが重たい沈黙を破るために口を開く。



「頭上げろやぁテツ」



「でもマルさん、俺……俺ッ!!」



「確かにここまで落ちた全ての元凶はお前かもしれないが、今それを責めても意味ねぇだろうが。いいから頭上げろテツ」



人一人の人生を台無しにし不甲斐なさに涙が出そうになりながらテツは頭を上げた瞬間に殴られた。立ち上がり途中で殴られ体制を崩し尻餅をつくと無表情マルさんが見下ろしている。



「すまんな。こんな親父でもな人生を他人に曲げられれば怒るんだ。今はこの一発で勘弁してやる」



「うっ……はい。すいません」



「さて、お前がここにきたって事は魔王に負けたんだな」



鼻血を吹きながら頷くと頭を数回撫でられいつものマルさんの憎めない笑顔に戻っていく。



「ここは刑務所みたいなもんだ。魔王に負けた奴が強制労働を強いられる牢獄。つまり囚人は皆勇者を目指し負けた奴らだよ」



「え、じゃマルさんも魔王に」



「いいや俺は魔王に辿りつけずその部下にやられたんだわ。んでここに放り込まれかれこれ半年くらいだ」



テツに一つの疑問が浮かぶ。マルさんは確かに戦ったであろうがその術はどうやったかと気になると答えを教えてくれた。



「学生の頃は柔道しててな。その流れで趣味で柔術も噛んでいたんだわ。その技術がこの世界では役に立ってなぁ~正直楽しかったよ、こんなに人に頼られる事なんてなかったしな」



「わかります。俺もボクシングの技術で這い上がって騎士団にまで入ったんですよ」



「でもな俺は組み付かなきゃ勝負にならんわけよ。この世界の奴らの武器の扱いに対して無力だった……途中まで上手くいってんだがな。やっぱり強い奴には勝てない三流柔道だったわけよ俺は」



二人は異世界にきてこれまでなにをしてきたのかを語り合い、互いに驚き、時には笑いあった。こんな状況だがマルさんとの再会に素直に喜んでしまう。



「マルさん傭兵に拾われたんですか!!」



「おうよ!! これでも少しは名が売れたんだぜ~武器も持たず相手に組みつく戦法なんて嫌でも有名になったんだがな」



「俺とは正反対ですね。俺は運よく騎士団だったし……マルさん。聞きにくい事なんですが、やっぱり殺したんですか」



両手を広げ笑顔で語ってたマルさんは表情が固まり次第に視線を落とし重い口調で語り出す。



「初めての時は殺したのに死ぬ思いだったわ。殺した奴が夢に何回も出て、この歳で寝ながら漏らすとは思わなかった」



「……マルさん。相談があるんですが」



テツが口を開いた瞬間に影が重なり見上げると先程の甲冑の男が野太い声で一言だけ残し鍵を開ける。



「出ろ。新入りの歓迎会だ」

 

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