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十四

口を開き息を吸うだけで骨に響き関節が痛む……拳の武装も剥がれ落ちほとんど残ってなく中身は傷だらけの手。契約者の回復力もたいした事ないなと思いながら一歩進む。


やる事はいつも通り単純。ただ拳を相手に向かい振り抜くだけだが、その相手は両手を顔の前で開きズッシリと構え待ちかまえている。武器を奪い戦力の大半を失ったはずなのにやけに余裕がある顔でテツを待つ。



「人間、お前の体を治すくらいはしてやった。あのイリアって女と魔王に随分と削られたからね」



「最強とか言う割にはしょぼいなぁ~まぁいい。素手ならこちらに分がある」



血と埃と欠けた鋼が散らばる玉座の間でテツは走り出す。ナイトメアは大半を破壊され後何発打てるがわからないがテツの有利は変わらない。拳を当てればさえすればユウヤの体など粉々になるまで連打を浴びせるつもりだ。


一発さえ当たれば必ず体制は崩れそこから連打が繋がる。それで終わり……魔王を倒し勇者になれる。



「シッ!!」



ユウヤは踏み込んでくるテツに対しまったく動かず待つ。ただ勝負の瞬間に集中させ呼吸を整えていくと紫色に禍々しく光る拳が残像だけ残しくる。



「くる攻撃がどんなに速かろうと拳とわかっていればこうなる」



槍のように鋭い蹴りを出した先はテツが踏み込んできた脚。全ての動きの中心になる膝の皿を割るかのように踵で蹴り抜くと動きがまるで時間を止められたかのように止まってしまう。



「いっ……っ!!」



拳より脚は長く同時に出せばリーチでまさる脚の勝ち。当然だが実戦でそれを証明できるユウヤの間合いの測り方、タイミングの前でテツは激痛に言葉を失い膝を落としてしていく。



「片足貰ったぞ!!」



ユウヤの言う通り膝は砕かれまとも立ってすらいられなくなる。バランスを失いかけたが痛みに耐え強引に立ち上がった瞬間に喉に突き刺さる……ユウヤの放ったの親指は喉仏に深く刺さりテツの呼吸を止めてしまう。


口は開いたまま閉じれなくなり膝が悲鳴を上げる中でテツは意地を見せていく。ユウヤに手を伸ばし襟を掴み動きを封じ残った力を全て拳に集めていき振り被る。



「実戦が想定されてないなボクシングは――ふん!!」



テツが拳を出す前にユウヤの頭突きで鼻を潰され涙で視界が奪われていく。脚、目を奪われてしまうがそれでもテツは拳を振り抜く、しかし当然のように空振りの感触しかなく自分の拳に振り回されてしまう始末。


ヨロヨロと倒れそうになりながらもふんばり涙を拭い視界を開けた瞬間には天地が逆になっていた。景色が高速で回りジェットコースターに乗っているように回され痛みで加速は止まった。



「アアァァアアァ!!」



「どうだ今お前は投げられたんだぞ。景色がグニャグニャだろうな」



頭から地面に叩き落とされ這いつくばるようにもがき立ち上がるとユウヤに言う通り景色は万華鏡を覗いたように回転し見てるだけで吐き気が込み上げてくる。



「な……――んで…戦いを広げた魔王!!」



口は半開きになり目は白目になりかけ酷い表情でテツはユウヤに聞く。まがいなりにもこれまで戦いを経験し人間同士の殺し合いを見てきたテツは思う。こんな戦いになんの意味があると。



「ここまで来てよく言う。お前は正義の勇者ごっこでもして俺と同じ人殺しを繰り返してきたんだろ? ならわかるよな、戦いは楽しかっただろう? 他者に一方的に暴力をふるうのは最高だったろ」



「ふざける……なっ!! 俺がどんな思いで……ここまできたと」



「お前は自己満足でここまできた。世界を救うとかいうルーファスの言葉に踊らされて。意味のある戦いなんてそれこそ意味がないだろ? 生物なんて争うもんだろうが、特に人間はな」



テツの頭によぎるのはマリアの笑顔、ババアと言われ怒る顔。もう世界だのどうでもよくなっていた。過ごした時間は短いが大切な者を奪われた復讐心で両腕に悪魔を宿し、どんなに苦しく痛かろうとユウヤに向かう。



「ま、今更戦いがどーのこーのなんて議論しても仕方ないしな。お前は負けたんだ俺に、それが全てだ」



砕かれた膝を再び蹴られるとついに倒れてしまい脚を引きずりながら進んでいくとユウヤの姿は消え首に生暖かい感触が巻き付く。



「お前が馬鹿にした老人達の遺産はどうだ? 残念だったなスポーツマン、武術の勝ちだ」



腕がまるで蛇のように絡まり頸動脈を締め上げられテツは苦しさよりも快楽を感じる。眠気が込み上げもがくがキッチリ脚でホールドされ完全に決まった状態……裸絞め。一度決まれば解除不可能な地獄にテツは落ちていく。



「グッ……ガァ!!」



「さぁ眠れ」



「グゥ……グ……――ッ…」



勇者になれると言われ舞い上がり契約者の力を手に入れて人殺しもした。それでも前に進むしかなく戦う理由も見つけられなかったが生きている実感できた。


テツは人生で一番濃厚な時間を過ごし命を天秤にかけて戦い抜き魔王へと辿りつき……。









敗北という名の闇へ意識は落とされていった。 

 


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