十三
付き合いがそれほど長いわけでもない。
特別な感情があるわけもない。
ただのおせっかいな年増だと思っていたが。
テツの顔は涙と鼻水でグシャグシャになっていた。まるで何十年も共に歩いてきた友人を失う気分と残虐な殺人現場を見せられた気分が混ざり、怒りと恐怖がまだ再生しきってない拳を加速させていく。
「あぁあああああああ!!」
喉が潰れるように叫び武装した拳を振り抜くとユウヤが野太刀で受け止める。互いに押し合いになりテツは拳を削りユウヤは支えている腕の血管から血液が吹き出る。
「お前に悲しんだり怒る資格なんてないんだぞ」
「黙れぇええぇえええええ!!」
左右の連打を繰り出すがユウヤは見えてるように全て防ぎ野太刀を手足のように扱う。
「動きが単調だな……なるほど武器は優れているが使い手が駄目か。ある意味バランスは取れてはいるな」
地面を踏み砕くように踏み込み懐に潜り込むボディへと狙いを定める。脚を使う相手への上等手段と昔通っていたボクシングジムで教えてもらった術を体が選択した。
「グッ!!」
しかし当たらない。どんなに速く動いても野太刀で牽制され、懐に潜り込んだとしてもあんなにも長い野太刀を器用に使い盾にされてしまう。それは互いの技量を越えた何かを感じテツの脚が止まった。
「仲間を殺された怒りは自分の不甲斐なさに気付き薄れたか。お前ボクサーだったんだな」
「――殺してやる」
ひよった自分の心を叩き直すように踏み出した瞬間にテツの前に閃光のような光が通る。斬撃の軌道が空中の描かれ痛みすら遅れて感じたユウヤの一太刀はテツを斬る。
自分の胸から熱い物を感じ手を触れてみるとドロドロと血が垂れ自分が斬られた事に気づき思考が止まってしまう。脂汗が顔から吹き出した瞬間に二撃目が振り下ろされた。
「人間!!」
声に反応するように腕をクロスさせて受けとめると肉はえぐれ刃は骨まで届く。ナイトメアは野太刀を攻撃し防御をし続ける中で破壊されていた。それでも一撃を防いだ事に感謝するとうにテツは笑い刀身を掴む。
「お前が殺してきた奴にも今のお前のように怒り狂ったり泣き叫ぶ家族がいただろうな。もう一度言う、お前は泣いたり怒ったりする資格すらない」
「ガァッ!!」
刀身を掴むと引きよせ一撃を放り込む、ニヤけた勘に触る顔へ消し飛ばすような拳で。もうそれはボクシングの打ち方ではなく。ただ威力のみを追求し大きく振り被った素人のパンチに変わっていく。
しかし武器は封じていると確信し拳を振り抜いた先には何もない。ただの空振りに終わり手元を見ると野太刀がまだしっかりと握られていた。
「ボクシングなぞ所詮はスポーツ、こいよスポーツマン。教えてやる武術とスポーツの差を」
何も持たず両手を開き待ちかまえるように構えたユウヤを見ると野太刀を放り投げ笑ってしまう。いくら強がっても武器を失い戦力の大半を失ったユウヤは小さく見える。
「どうした? 恐怖と怒りで気でも触れたか」
「笑わせるな、何が武術だ。ただの時代遅れで錆びれた老人達の遺産だろうが」
「人間を大勢殺し一端の口を聞くまでになったか一般人。所詮はボクサー、それを教えてやる」
テツの圧倒的な力か。
ユウヤの武術の技か。
決着は二人の間合いと共に近づく。