七
瓦礫の山で親子は再会を楽しむ。母イリアはわざと娘ニノの攻撃を受けてその成長を体に刻んでいく……一撃を魔剣で受けるたびに鍛錬した日や人を殺した数が手に取るようにわかる。
全ては自分を倒すためと思ってここまできたと思うと我が子が愛おしくてしかたない。父ユウヤから授かった刀を使い、速さタイミングは申し分なく連携も悪くはない。
太刀筋は親子なのかユウヤに似ている。呼吸法から足運びまでイリアはじっくりと観察していく。まだ十五そこそこの子供にしては異常なまでの強さだが。
「ぬぅうん!!」
受けから一転し魔剣を大きく一振りすると、懐で好き勝手刀を振りまわしてたニノに避ける距離はなく直撃をもらってしまう。刀で受けたとはいえ圧倒的力の前に吹き飛び瓦礫の中に飛び込む。
「少し期待しすぎたかなニノ。それが全力じゃないのだろう」
瓦礫の中から体を出し額から落ちる血を拭うと下唇を噛む。
「化け物め」
自分の母親ながらそんな言葉が出てしまう。化け物じみた強さ……それは物心ついた頃から一切変わってなく今も目の前にいる。
「ではゆくぞニノ」
鉄塊の魔剣を一振りするとニノは後方に飛ぶ。魔剣が地面に叩きつけられると瓦礫が弾け飛び、石の矢がニノを襲う。気づいた頃には体が石の矢に射抜かれ地面に頃がる。
「休んでる暇はないぞ!!」
息を整える前に魔剣が迫り飛び起き避ける。イリアから見たら一瞬消えたように見え姿を見失うと微かに魔剣の重さが増してる事に感じ切っ先に目をやるとニノが立っていた。
「母上、いざ」
「断る前にささっとこい」
振り抜いた姿勢で停止してるイリアは絶対的に不利な状況だった。弱点を何箇所も晒し姿勢が悪い。いくら契約者でもまずい……なによりニノは知っている。契約者をどのように殺すか。
所詮は人より少し頑丈程度。一気に叩きまかけられたら致命傷は免れない。そう考えてる内にニノは魔剣の上を走り出す。
「ぬ」
姿勢を直す間に斬られ、回避するにしても距離が近すぎ間に合わない。元々使わない頭をフル回転させたイリアはある一つの考えを導き出し賭けに出た。作戦にも届かない無謀な賭けに。
「なっ!!」
ニノの驚いた声と共に魔剣が揺らいで落下していく。数秒間なにが起こったか理解出来ずにいたが視線を戻すとイリアが……自らの武器である魔剣を手放していた。
バランスを崩し状況確認までの数秒の間にイリアは拳を固め大きく振り被る。体ごとぶつけるようにパンチはまだ片足しか地面についてないニノに喰らいつく。
「それがパンチか母上。遅すぎるぞ」
横からのフルスイングをニノ最小限の動きで華麗に避けて空振りしたイリアに刀を振り上げた。
「テツに感謝だな。あいつの拳に比べれば……ん」
片腕にまとわりつく違和感を感じると手首が握られイリアが笑っていた。構わず刀を振り下ろした瞬間にはニノ地面に口づけをしていた。何をされたかわからずに顔を上げると景色がグニャグニャに曲がり平行感覚を失う。
「テツに組み技を習わなかったのか娘よ。まぁ終わりだな」
「なっ――」
膝をつき刀を杖変わりにようやく立ち上がるとイリアの姿は歪んで見え吐き気がくる。ヨロヨロになりながらなんとか構えた瞬間に悲鳴にも似た声を上げてしまう。
「ひぎゃぁああああ……っ!!」
イリアの横からの蹴りでニノの片腕の肘から下は逆方向に曲がり不気味な形になる。
「赤子以来だなお前の叫び声を聞くのは。安心しろ可愛い娘は殺さない、動けなくするだけだ」
平行感覚と片腕を失ったニノにたいしイリアは容赦なく顔面に拳を放り込み愛しい娘を吹き飛ばす。何度も転がり跳ね、瓦礫の激突し、ようやく止まったニノは血だらけの顔を上げて立ち上がる。
「さすが獅子の子だけあって心は折れないな。お前が立ち続けるたびに殴り飛ばしてやろう」
勝負はついた……ニノどうあがいても勝機はない。腕一本を奪われた時点で終わっていた。それでもテツを巻き込んだ責任、親を止めたいと願う気持ちで前に一歩進む。
「だが心意気だけで勝てるほど私は甘くない。ニノ……沈めぇええええ!!」
イリアの剛腕を振るう音が鈍く響くとニノの言葉が奪われていく。