プロローグ
男の名前はテツ。
最終学歴中卒。
現在の仕事交通誘導。
33歳……これがどーゆ意味を示しているかわかるだろうか? テツの人生は詰んでいる、学歴もなければ資格もなし、まだまだ学歴社会の日本では絶望的、否!! 絶望すら生ぬるい生き地獄な毎日をテツは生きている。
「俺が女だったら俺みたいな奴絶対選ばないよなぁ」
照りつける太陽に工事現場特有のアスファルトから煙が上がる現場でテツはぼやく、毎日トラックやカラーコーンと過ごしすっかり交通誘導のバイトではベテラン組に入ってしまった。
新しいバイトに仕事を教え現場では誘導の指揮をとる、聞こえはいいが1日の給料6800円……33歳が稼ぐにしては笑えない金額である、それでも働くしかない、これぐらいしか出来ないのだから。
毎日毎日毎日ひたすら誘導、排気ガスにまみれて現場監督から怒鳴られドライバーに缶コーヒーをぶつけられても文句は言えない、交通誘導員は現場では一番低い位置なのだから。
「俺はまだ若いからこれからやり直します!!」
ある昼休みに若者がそうテツに言う、結構使える24歳の新人隊員だ、人柄もよく現場でも上手く人間関係を構築してる中々見所があり会社でも早めに交通誘導の資格をとらせどんどん仕事を回したいと言われている。
「悪い事は言わない、資格だけはとるなよ」
「なんすか先輩~ベテランの先輩が言う事じゃないっすよぉ」
「資格とっても1日300円しか上がらないんだぞ、しかもキツイ現場いかされるし割にあってないんだよ」
昼休み木陰で弁当を広げながら新人と二人で世間話をする、テツはこの時間が好きだ、若者の話は聞いてるだけで自分が若くなったと思えてしまうからだ、それが幻想だとわかっていても辛い現実を忘れられる時間だからだ。
新人は彼女が作った弁当、テツはコンビニで買ってきたパン……納得はしていた、こんなになるまで人生を放置していた自分のせいだと思う、悔しさを噛み締めるようにテツは立ち上がり大きく背伸びをしヘルメットをかぶる。
「さて午後からは俺は交通量の少ないとこな、お前と配置交代ね」
「え~折角メールしてたのにぃ~それにあそこ現場監督がうるさいんですよぉ、テツさん勘弁してくださいよ」
「ハハッ新人鍛えるのも仕事なんでね、それに俺も携帯いじりたいし、最近いいゲーム見つけたんだわ」
ニカッと笑い新人の背中を叩き現場に送り出す、仕事中に携帯を見るなんて先輩として見過ごせないがテツにはどうでもいい事だった、通行止めを7時間以上するんだ暇な時間なんていくらでもある、テツは主に暇な時間を妄想に費やす。
剣と魔法の世界で戦い勇者になり可愛いヒロインと……そうテツは厨二と呼ばれる属性を持っている、しかも厨二歴20年のこれもベテラン組だ、妄想はテツを美形で強い憧れの主人公に変えてくれる、この時間だけは何者にも邪魔されない……
「てめぇ何回言ったらわかるんだ!! 埋めるぞ!!」
邪魔は雷のような叫び声で入る、急いで戻ると新人が現場監督に怒鳴られ小さくなっていた、即座にテツが監督に謝り倒し理由を聞くと……歩行者が工事現場に入った事が監督の逆鱗に触れたらしい。誘導ミスなので新人二人と謝りその場をやりすごす。
「テツさんすいません、ついつい気が抜けてボーとしてました」
「うんまぁ気にするな、何時間も気を張れるほど人間強くはない、配置変わってやるからお前あっちで休んどけ」
テツが変わりその日は終わりまで配置は変わらなった、帰りの車の中は新人が少しばかり元気がないのがわかりテツは笑いながら励ます。
「なぁ~にヘコんでんだぁ~所詮はこんな仕事だ気にするな、俺は交通誘導に誇りも自信も持っちゃいないからなこんな事言えるが」
「テツさんってベテラン組とは思えない発言しますよね、先輩達の中には厳しい人もいるのに」
「フフッ馬鹿め、真面目にやっても給料に大差ないさバイトの限りな、たくっ交通誘導で少し位の高い資格とると偉そうにする奴いるんだよな~たった300円の差でだぞ~笑っちまうなガッハハ」
駅に新人を送る頃にはテツの仕事を舐めている話がきいたのか新人は笑顔で手をふり帰っていった、おそらくは愛する彼女の元へ……顔もそこそこ整ってるし性格もいい、彼女もいるのも納得だと思いテツは自宅の扉を開く。
畳に茶色く汚れた壁、月35000円のボロアパートでテツは人生を過ごしていた、帰宅後にまず何よりも優先するのはPCの電源を入れる事だ、気になるサイトを巡回しつつ掲示板に書き込む。
「ちょwww何その勇者!! テラワロスw」
思わずネット用語を口にしモニターの前で手を叩く、ネットはテツにとっては無くてはならない存在だ、おそらく1日でも触れないと手が震えるだろう……帰宅しPCするかゲームがテツの生活スタイルだ。
ゲーム起動しながらPCで攻略サイトを見てニヤニヤする顔は誰にも見られたくないだろう、ボスの弱点を調べレベルをしっかり上げて万全の状態で挑み完全勝利とゲームなのに現実的に進めていく。
「あぁああああ!! さっきのボスこんな武器盗めるのかよ!!」
時刻は夜中の12時が回るとテツは欠伸をし寝床の準備をし風呂に入り携帯のアラームをかけて横になる、暗闇の中ふと人生を振り返ってしまうのは悪い癖とわかりつつ取るに足らない33年間を思い出してしまう。
夢の世界に旅立つ前にテツは目蓋を閉じて33年間の人生に一言だけ残してしまう、思いのこもった一言……
「ちくしょう」