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9.「木の精霊王女ツーリ」

「……クックック……この人殺しが……!」


 俺の拳を食らって、顔を歪ませて笑うツーリ。


「勘違いするなよ。俺は〝救う〟ために拳を振るったんだ。殺す為じゃない」

「……は?」


 と同時に。


「うぐっ!? 何ですのこれ……!? う……がああああああ!?」


 ツーリが苦しみ出し、髪を掻きむしる。


 良かった。〝胸の辺り〟で合ってたみたいだな。


 女神の祝福のおかげか、はたまた三十年間掛けて微精霊や小精霊たちから魔力を貰ったおかげか分からないが、〝どの部分に〝正拳突きによる魔力〟をぶち当てれば良いのか〟が分かった。


 ダダークによって〝最も汚染された核〟とも言える部分の〝闇の魔力〟を破壊することに成功したんだ。


 落下していく俺を、「師匠!」と、飛んできたアイシィが空中で受け止める。


 ツーリの苦悶と共に、世界樹も動きを止める。


「ああああああああああああああああああああああ!」


 咆哮したツーリは、突如脱力し、落下した。


「っと! ハッ! 危ないねぇ、この子ったら」


 飛翔してきたファイフィが抱き留めて、四人で地上へと舞い降りる。


 ファイフィの膝の上で寝かされたツーリは、間も無く目を開いた。

 バッと起き上がった彼女は、俺に抱き着いた。


「怖かった……わたくしの身体が、勝手に動かされて、人を殺そうとして……助けてくれて、本当に感謝いたしますわ……」


 涙を流す彼女の背中を、俺が優しく擦っていると、横からアイシィが噛み付く。


「ちょっと! どさくさに紛れて師匠に抱き着くとか、何してくれてんのよ、この泥棒猫! それに、なんで闇の魔力に汚染された場所が〝胸〟なのよ!? 私だってまだ、師匠に触ってもらってないのに!」


 すると今度は、アイシィに抱き着くツーリ。


「アイシィも、感謝いたしますわ!」

「わ、わ! そ、そうね、まぁ、友達だし、そのくらいしてあげるわよ」


 自分からは躊躇わず抱き着く癖に、相手から来られると困惑するのか、我が弟子よ。

 ちょっと微笑ましいな。


「ファイフィも、ありがとうございます」


 ファイフィに抱き着こうとしたツーリが、ふらつく。


「っと! またかい。気を付けなって」

「ごめんなさい……どうやら、魔力をほとんどダダークに奪われてしまったみたいですの……せっかく助けて頂いたのに、残念ながら、貴方たちと一緒に戦えそうにありませんわ……」

「何言ってるのよ! 貴方が無事だっただけで十分よ!」

「そうさ。それに、あたいがそんなか弱い女に見えるかい? あたいは一人でも最強だから、あんたはゆっくり休みながら、あたいがあのクソ野郎をぶっ飛ばす瞬間を待ってなよ」

「アイシィ……ファイフィ……ありがとう……本当にありがとう……」


 世界樹がボロボロと崩れ落ち、再び朽ち果てていく中。

 涙するツーリを、アイシィとファイフィが抱き締めた。


※―※―※


「アイシィさま、ファイフィさま、ありがとうございました!」

「「「「「ありがとうございました!」」」」」


 騎士団と魔法師団の団員たちが整列して、頭を下げる。


 なんか所作がすごく武闘家っぽいな。

 ファイフィの影響か?


「時にファイフィさま、そちらのお方は?」


 騎士団団長が俺の方を見ると、待っていましたとばかりに、アイシィが代わりに答える。


「よくぞ聞いてくれたわね! こちらの方は、パーチさん! 私の師匠であり、みんなも見ていたと思うけど、モンスター化した世界樹を倒せたのも、木の精霊王女のツーリを元に戻せたのも、全部師匠のおかげよ!」

「あんたのじゃなくて、〝あたいの〟先生だからね」

「何言ってんのよ!? 〝私の〟師匠よ!」


 二人が言い合っている中。


「パーチさん、ありがとうございました!」

「「「「「ありがとうございました!」」」」」


 団員たち全員が改めて頭を下げる。


「いや、俺は何も――」


 そう言い掛けるが、涙を浮かべる彼らの顔を見て、考えを改める。


 そうだ。彼らは、祖国を守るために団結し、文字通り命を懸けた。

 ほとんどアイシィとファイフィのおかげだけど、ほんの少しだけ俺も役立った。

 それに対して恩義を感じ、こうして表明してくれた彼らに、俺も応えなくては。


「国を守ることが出来て、本当に良かったな! きっとこれからも、一致団結すれば守っていけると思う! 勇敢な戦士たるお前たちと共に戦えたことを、俺は誇りに思う! ありがとう!」

「「「「「おおおおおおおお!」」」」」

「ありがとうございます!」

「本当にありがとうございました!」


 なんかすごい盛り上がってる。

 天に拳を突き上げちゃったりしてる者までいるし。


「師匠、格好良いです! 流石師匠です!」

「ハッ! 流石あたいの男だよ」

「誰が誰の男よ!?」


 そのようにして、俺たちは何とかファイアフローレス皇国皇都防衛に成功した。


※―※―※


「「「「「うおおおおお!」」」」」

「本当だ!」

「身体中から力が溢れてくる!」

「すごい! 凄過ぎる!」

「パーチさん、ありがとうございました!」

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

「どういたしまして」


 その後、アイシィの空間転移指輪によって俺たち三人はファイアフローレス皇国皇都内にある武闘団訓練場に空間転移して、何度も〝エール〟を送って、団員たち全員をS級の実力まで戦闘能力を引き上げた。


※―※―※


 その日はレストランで食事をして、これまた超高級宿に泊まり、戦闘で酷使した身体を休めた。


 翌日の朝。


「それじゃあ、今度はサンダーデラリア帝国へと空間転移します。サンダリがいますので」

「あの子か。久し振りだな」


 十年前に山の中で獣に襲われていた精霊王女の最後の一人だ。


「精霊王女三人の力を結集して、魔王ダダークに対抗するんだな?」

「その通りです! 流石師匠です!」


 ダダークは精神操作している精霊王女たちの魔力を吸い上げて、自分のものとしている。

 間違いなく強い。そうなると、確かに、アイシィ・ファイフィレベルの猛者がもう一人欲しいところだな。


「あの子と会うのも久し振りだねぇ」


 ファイフィが遠くを見詰める。

 やはり幼馴染は特別なのだろう。


「じゃあ、行きます! 『ワープ』!」

 

 次の瞬間。


 俺たちは荒野にいた。


「あんたなんかにお姉ちゃんは絶対あげないの!」


 声に反応して見上げると、金色ロングヘアの美幼女が上空に浮かんでおり。


「死ぬの! 『サンダー』!」

「!」


 眩い稲光と共に、俺に雷撃が襲い掛かった。

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